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飯屋を出た冨岡が何故か来た道と逆を行くから、俺は彼のその行動に何か意味があるのかと思って黙って彼の後ろを着いて歩いた。
昼過ぎの空気は相変わらず眠気を誘う。数歩先を歩く冨岡の背中を見つめながら、俺はその次の言葉を今か今かと待ちわびていた。
冨岡は特に何を教えてくれるでもなかった。
木々の間から漏れる午後の光を受けた冨岡の後姿はやけに静かだった。俺はついに我慢ならなくなって、おいと一声かける。
「お前、何か隠してるだろ。」
「……。」
「言いたいことがあるなら言えよ。……喋り倒したと思ったら急に黙りこくって、気持ちわりぃ」
先程の飯屋。冨岡は到底妻を思いながら語る男の顔をしていなかった。僅かに口角が上がったり、声色が優しくなることはあったが、出所の分からない重い空気が彼に纏わりついていた。
ただ幸せだという報告ではない。きっと何かしらの思惑がそこにあった。
「……隠してはいない。ただ、今日の中でお前に一つだけ嘘をついた。」
「嘘……?」
急に冨岡が立ち止まるから、何故か隣にならんでは行けない気がして俺も倣う。ざり、と砂の音がして彼が振り返る。息を吸うのさえ憚られた。
「俺は本当なら、彼女と結婚する前にお前に打ちあける気でいた。」
「…………。」
「だから今日お前の家を訪ねたのは偶然でも気紛れでもない。」
「友人の家に来るのに理由はいるのか。」
ふと頭の中で繰り返される今朝の言葉。
きっとこの言葉に嘘なんて無いんだろうけれど、冨岡がそれ以上に重大な意味を持って俺を訪ねたことは明白だった。
こいつの寡黙な性情に託けて、俺は彼の真意に取り合おうとしなかったのだ。
「…………正直に言うと、怖かった。」
「……何が」
「……そもそも、不死川と最後に会った日。また集まろうという仲間たちを見るお前の顔は、決して再び会えるだなんて思っちゃいなかった。これが一生涯の別れとでも言うような目だった。」
俺は知らなかった。
この男がこんなにも人を注意深く観察してる男だとは思わなかった。そしてこんなにも人の心を察するやつだとも。
「─────死ぬつもりだったんだろう、不死川。」
「……っ、」
「お前は仲間思いだから。優しい人だから。だからお前は自分の幸せを許さない。
ただ死を待つことが、お前なりの贖罪なのだろう。」
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時