24. ページ24
.
「……は?」
「…………。」
「いやいや待て待てここで黙るな。ちゃんと説明しろ。」
「説明も何も無い。結婚したと言っている。」
冨岡は依然としてこちらを見てくれはしなかった。聞けば聞くほどに分からなくなる現状。俺だって人のことは言えないけれど、あまりにも急すぎやしないだろうか。……というかそんな大事なこと、飯の最中に言わないで欲しい。
「………………、まあ、おめでとう。」
「あぁ。」
「…………急だな。」
「お前もな。」
友人の俺に言わないとはどういうことだ、と冨岡はやはりこちらを見ずに呟く。
いや待てそもそもお前は友人ではないしいい加減ちょっとはこっち見て喋れや。
……と悪態を着くのも心の中。冨岡はやはりいつもに似合わぬお喋りを俺の前で繰り広げる。
「お前の嫁を綺麗だと言ったが、俺の嫁も負けてないぞ。」
「あー……はいはい」
「優しい人だ。人の為に本気で怒って、本気で悲しめるような人だ。まだ隊士だった頃の俺は彼女に何度励まされてきたか分からない。」
「………………は?」
落ちる違和感。自身が喋ることに一切の集中を払っていた冨岡は、まるで俺の動揺に気づいてくれない。
「いつか鬼殺隊の要らない世になったその時。その時こそ俺は彼女に気持ちを伝えようと思っていた。そして数ヶ月前、やっとそれが叶った。」
…………やっぱり。
俺は明らかに異常な点に気づいてしまった。気づかねばならなかった。
てっきり冨岡もまたその血を絶やさぬ為に産屋敷家から嫁を貰い受けたのだと思っていた。が、どうやら違ったらしい。
冨岡の話は、特に何の捻りも落ちも無かった。
決してこちらを見ずに、時々箸を止めたりしてはまた口を開き。彼の妻に対する想いを淡々と垂れ流し、そうして遂に俺に何を問うわけでもなかった。
ただ自然に言葉を終えて、まるで何事も無かったかのように食事を始めるから、俺はとうとうこいつの考えがわからなくなって。
「…………冨岡っ、お前……」
聞きたいことなんて山ほどある。
口を開いたと同時。
いつの間にか食事を終えていた冨岡が徐に席を立った。
「行くぞ、不死川」
「はっ、……?いや、俺まだ、」
「すまない、勘定を頼む。」
「いやだから話を聞けって!!」
何も言わぬ顔が俺を見る。嫌という程見飽きたこのいつもと変わらぬ顔が、今だけは気休めにさえなった。
.
676人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時