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「………………。」
「……私にはもう、帰る場所などないのです…………。」
「…………俺、は」
助けたいと思った。選択を迫られた。
「私は生きていて良い人間では無いのです。」
いつか、どこかで聞いたような言葉。─────他でもない、俺自身が吐いた言葉だった。俺は生きていて良い人間じゃなかったから、そうして俺は人並みの幸せを諦めた。
でも、彼女は?
Aは本当に生きる価値の無い人間なのか。生きてちゃ駄目な人間なのか。
そんなの、違うに決まっている。
Aは幸せになっていい。ならなきゃいけない。幸せな未来、彼女の隣にいるのは俺じゃない。
俺じゃ、
「…………分かった。」
「え……?」
「────Aがここに居たいなら、気が済むまでいたらいい。」
俺じゃなく、とも。
今目の前で苦しむAを救ってやれるのは俺しかいなかった。俺が一言了承の言葉を掛ければそれでよかった。
この時の俺は、決してその先のことなんて頭になかった。
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。」
「……私はっ、……貴方にとって……必要な人間でしょうか。」
「あぁ……、だからそんな顔するな。俺はお前の笑った顔が好きだ。」
自分でも馬鹿な奴だと思う。ただ目の前にある幸せに縋って、彼女を騙して。
けれど今言った言葉に何一つ偽りはない。それだけは信じて欲しい。
Aの笑った顔が好きだ。
眉尻を下げて、少し恥じらった後に白い歯を光らせるあの笑顔。見ているだけこちらまで口角が緩んでしまうような太陽のような笑顔が、たまらなく愛おしい。
「ありがとう……っ、ございます」
泣き出してしまいそうな彼女は、俺の言葉を思い出したのか無理して笑った。
ぎこちない笑顔だったが、不思議と嫌な気はしなかった。俺はもう、何も考えちゃいなかった。
「改めて、これからも宜しく頼む。」
彼女の両手を取って、俺は確かにそう言った。
弱かった。俺は最後まで自分の信念を貫くことが出来なかった。
春が終わり夏が来る。そして秋を迎えて俺は歳をとる。
いつ死ぬかなんて分からない。明日の朝、眠ったまま死んでしまうかもしれない。そしたら残された彼女はどうなってしまうのだろう。
(…………どうでもいい)
どうでも良くなんかないだろ、馬鹿。
「ずっと傍にいてくれ、A。」
俺は君を助けたい。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時