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「─────……最後にここが俺の部屋。あっちの離れは物置だから気にすんな。」
くるりと身を翻せば、最初より随分小さくなった彼女───Aがどこか居心地の悪そうな顔をしていた。
まぁ分からない話でもない。突然夫婦になり、見ず知らずの男の家に連れてこられたのだから。
あの後。俺が承諾の言葉を口にしてからは早かった。祝言はいつにするかと尋ねられた時には流石に焦ったが、「急な事だからしばらく時間が欲しい」という俺の意見に輝利哉様も納得してくださった。
そして今、彼女が俺の家にいる。
二人分の履物が並ぶ玄関を見るのは何ともくすぐったかった。
「……何か聞きたいことは?」
俺がそう尋ねると、小さかった彼女は余計に身を縮こませて目をうるわす。……これは大分怖がられてる。
そもそもの話。
今日の昼、産屋敷邸での会話に彼女は声を発していなかったように思う。
自身の名を口にし、軽い挨拶をして、それきり。
今思えば、結婚の了承を彼女はしちゃいなかった。話を進めていたのは全て産屋敷家の人間で、そこに彼女の意思なんて何一つないように思われて。
「……いえ、特にありません。お気遣い、ありがとうございます。」
少しでも音を立てれば、かき消されてしまいそうな程に小さい声だった。
伏し目なのは最初と変わらない。
彼女はやはり居た堪れないと言った具合に、眉尻を下げ。そして少しだけ、不安な表情を見せた。
「…………あのよォ」
言葉の前に大きく溜息を着く。彼女の肩が揺れた。あぁ……これでも怖がるのかい、若い女ってやつは。
「お前、なんで嫌って言わなかったんだ?」
俺は努めて、優しくそう言ったつもり。
それでも彼女の忙しない視線は止まることを知らないし、下がった眉尻も健在だ。
一向に開かれる気配のない口元に、俺は痺れを切らして。
「…………言っとくが、俺はお前と結婚するつもりはねぇ」
「…………え?」
漸く開いた彼女の口。
不意に上げられた顔。張り付いていたのは困惑の二文字。
「お前がどうこうって話じゃねえ。……俺は誰とも結婚しない。子供も作らない。」
───……残された者の悲しみは、俺が十二分に理解しているから。
「…………送ってこう」
「え、……」
「輝利哉様には俺から伝えておく。家は何処だ?送ってやるから、もうお前は、」
「───……待ってください!!」
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時