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小さな啜り泣く声が完全に消えたのは、それから数十分もしてからの事だった。
その間ずっと一定の調子で背中を叩いてやった俺は、いまいちやめ時が分からなくて迷ってしまう。
(…………なんか、懐かしいな)
玄弥、寿美、貞子、弘、こと、就也。
過ぎ去ったあの日々は、何年経っても昨日の事のように覚えている。
くだらない事で喧嘩して直ぐに泣き出すから、俺はいつだってその小さな体を抱いてやった。今みたいに心音と同じくらいの間隔で背を叩いてやれば、皆泣き疲れて眠り出す。
その寝顔を見るのが好きだった。
「実弥さん」
鼻をすする音。赤く腫らした目には、もう涙は流れていない。
「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした……。」
ただでさえ赤く染まった頬をより一層濃ゆくしていく。また瞳が潤みだすから、俺は零れてしまうより先にその目尻に溜まった雫を拭ってやった。
「気にすんな。何があったかは知らねぇが、あんなクソみたいな野郎の言うことなんざ聞かなくていい。」
「…………何があったか、私に聞かないんですか?」
「お前は聞かれたくないんだろう。」
俺の言葉に、Aは目を見張る。見張って、そしてまた居場所を失った視線があっちこっちへ動き出す。
すみません。はっきりと聞こえなかったが、恐らく彼女がそう呟いた。
「……実弥さん、御弟妹が居ましたか?」
「……あぁ?いたけど。」
「やっぱり。実弥さんの腕の中、とっても安心しました。」
「はっ、子供のあやし方は得意だからな。」
「私は子供じゃありません!」
怒ったように頬をふくらませるA。
いきなりの大声に自分でも予想外だったのか、Aは目を丸め、俺を見。
そして目が合った俺もまた、その様子がなんだか可笑しくて笑ってしまう。
「ありがとうございます、実弥さん。」
「……。」
「……私、いっつもいっつも実弥さんに笑顔にしてもらってます。それなのに……私は、……」
「自分は何の芸も持たぬ木偶の坊だというのに。」
詰まる言葉。薄暗い彼女の瞳の奥には、きっとあの男の言葉が焼き付いている。
「…………居るだけでいい」
「え……?」
「朝起きてそこに居てくれればいい。おはようを言って、飯を囲んで。……何気ない会話の中で笑ってくれればそれでいい。」
「……っ、」
「お前の笑った顔は嫌いじゃない。」
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時