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「A…………、おい、A!」
硝子細工のような大粒の雫がAの頬を伝う。呼びかけても返事はない。Aはただ虚空を見つめ、ブツブツと何かを呟いているようだった。
ごめんなさい。違う。私は。
掠れるような声の中、拾えた言葉はそれだけ。ボロボロと止まることの知らない涙は彼女の頬を濡らしていく。そしてそれに誘われるようにぽつり、ぽつりと空も泣き出した。
(…………しまった、傘が……)
完全に使い物にならなくなった手元のそれは現状を煽るだけ。未だ気が確かでないAと、忍び寄る雨雲。
「……大丈夫……大丈夫だ、」
何にも大丈夫なことなんてありゃしないが、無力な俺には気休めにそう唱えることしか出来ず。……この言葉すら、彼女の耳に届いてるか定かではないが。
段々と冷たくなるAの肌。流れ出る雫が枯れる時、その命も消えてしまいそうな気がして俺は焦る。震える彼女を連れて、俺は家へ急いだ。
*
家に着いてからというもの、Aは一向同じ様子で。体が冷えたろうから風呂でも入れようと提案したが、俺の袖口を掴む手が震えていたから俺は動けないでいた。
「…………。」
……どうすれば、いいのだろうか。
先程はつい反射的に抱き寄せてしまったが、それは果たして正しかったのか。
そんな反省会を頭の中でしていたが、Aの弱っている姿が見てられなくって手を伸ばす。もう以前のように仰け反ることはしなかったから、俺はそのまま彼女を抱きしめる。
細い。小さい。頼りない。
降りしきる雨音でさえ、Aは消えてしまいそう。
しゃくり上げる声に心が痛むから、それすら塞ぎ込むように強く抱き締めた。空いた手で頭を撫でてやり、数回背中を摩ってやれば次第に呼吸が一定になる。
「……落ち着いたかい?」
返事はなかった。その代わりに彼女の頭がこくこくと揺れるのを感じた。
「さっきの奴は知り合いか?」
「……はい。」
「あいつは……。
…………いや、いい。野暮なことを聞いた。」
きっと今の彼女にとって、先程の男を思い出させるのは最も避けるべき悪手だ。
俺は知らない。この子のことを、何も知らない。
何も知らない俺には、もうどうしてやることも出来ない。
「………………すまねぇ。」
止みそうにない雨音を聞きながら、俺は呟く。俺の腕の中の小さな命が消えないように、俺は。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時