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俺の言葉に大方満足したらしいAは、自分もまた美味しそうな顔で食事を口に運ぶ。───やはり、彼女の所作は一つ一つが丁寧だ。
「そうだ。不死川様は、何かお好きなものはありますか?」
「……好きな物?」
「今後の献立の参考にしようと思いまして。」
ニコニコと笑うA。俺は何だか居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
ただでさえ食事を作ってもらっているというのだから、何も俺の好物に合わせる必要なんてないのに。
美味い飯が食えればそんなに幸せなことは無いだろうし、不摂生な日々が続いていた俺にとって3食しっかりとしたご飯が出てくるだけで十分すぎた。
それなのに。
「旦那様の好きな物は、私も好きになりたいですから。」
なんて。
彼女は恥ずかしげも無く、そう言った。
「旦那じゃなくて旦那のフリな。」
「ふふ、わかってますって。」
「…………飯じゃねえが、お萩は好きだな」
「へぇ。何だか意外です。」
「男が甘いもん好きで悪かったなァ」
「そんなことありませんよ。今度つくりますね。」
気がつけば、静かだった部屋には二人の小さな笑い声が響きあっていた。
特別盛り上がった訳でもないけれど、今日あったことをお互いにぽつりぽつりと話す内に二人の皿は空になる。
そうしてからも、俺達はなかなか話を止めないでいた。
「……お前さぁ」
「はい?」
「その“不死川様”ってのはどうにかならねぇか。呼ばれ慣れてないから落ち着かねぇ。」
他意はない。本当に言葉通りの理由だった。
彼女は少しだけ悩んで、そして直ぐにあっと思いついたように声を上げ───しかしどうしたのか、薄らと頬を朱色に染める。
……ほんと、見てて飽きないやつだ。
「さ、実弥……様?」
「…………。」
「実弥、さん」
「おう」
初々しいAの姿に、俺は思わず笑ってしまった。吊られるようにしてAも。
……何してんだ、俺。俺らは他人のままでいると。情が湧く前に離れると、そう誓ったじゃないか。
情けない程の自己中心だ。今の俺を見たら、宇随は怒るだろうか。矛盾だらけの俺を見て、幻滅するだろうか。
────でも、そんなことも気にしていられないくらいこの空間が心地よくって。
長い長い夜の始まりはいつだって気が塞がる。
でも、君となら。Aが傍にいるこの夜は、まだもう少しだけ、続いて欲しいと。不思議とそう思えてしまった。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時