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｢……ん…………、
─────実弥さん。｣
はっ、と気がついた頃には、目の前にいた全員が俺の方を心配そうに眺めていて。
春の陽気に当てられたのか。……いや、原因なんてわかってる。紛うことなき、たった今目の前に現れたこの女性だ。
｢どうかしましたか？｣
不安そうな輝利哉様の声。俺は取り繕って平静を装う。
｢いえ、何でもありません。｣
無理やり口角を吊り上げてそう一言。皆の顔が相変わらず晴れないということは、俺の精一杯の作り笑いはバレバレらしく。
｢ほら、挨拶しなさい。｣
輝利哉様の御声に、女性は今一度姿勢を正して俺の方を見た。
｢Aと申します。｣
それだけ。
苗字も名乗らないその言葉に一瞬疑問を感じたが、それは直ぐにどこかへ消えた。
その代わりに気がかりだったのは、彼女の年齢。あの輝利哉様が敬語を使わぬ人物……、あぁ、いや。親戚なら当たり前か。
｢どうでしょう、実弥さん。｣
｢え、……｣
｢この子を、嫁にしてやってはくれないでしょうか。｣
……そうか、そうだった。
余りに突拍子もない出来事だったから思わず顔を背けていたけど、俺は今、結婚の申し出を受けている。
｢身よりもない、可哀想な子にございます。｣
｢どうか、前向きに御検討頂ければ幸いです。｣
くいな様とかなた様の声。
その言葉の内容に思わず胸が詰まり、俺はゆっくりと彼女を見た。
日を知らない白い肌。艶のある髪。林檎のように赤く染った唇。
彼女は恐らく、世間一般で言うところの美人と呼ばれる部類であろう。
───……しかし、なんだ。この拭いきれぬ違和感は。
確かに美しい。綺麗な人なのだけれど。
俺はその作り込まれた美の中に、何かしらの決定的な欠如があるように思われてならなくって。
彼女の伏した目の上で揺れる睫毛を、見つめる。
｢どうでしょうか、実弥さん。｣
輝利哉様がもう一度同じようなことを尋ねた。
俺は困ってしまう。
(………………俺は、長くともあと四年で死ぬ。)
人並みの幸せはとうの昔に諦めた。
今の俺に出来ることは、もう悲しませる人を作らないように、一人孤独に死ぬことだけだと言うのに。
｢────分かりました。｣
結局俺は、情けないほど“御館様”という人間に弱かった。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました！！！ (2021年5月3日 19時) (
レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*ﾟOﾟ*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます！！お、落ち着いてください……！？笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです！！ (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆき
| 作成日時：2020年12月6日 17時
