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「───……は、」
風の光る季節になったある日の事。
鬼殺隊を解散して数ヶ月。先の戦いの傷も癒え、隊士達は皆元の生活に返っていった。
俺も例外ではなく、身よりもなくなってしまった今、一人静かに暮らしていた。
そう。この日迄、は。
「実弥さんは素晴らしい剣士であられます。その血を残さずして、どうしてそのままこの世を去ることが出来ましょうか。」
桜の花びらと共に舞い込んできたのは、大事な話があるという旨の書かれた一通の手紙。
差出人は隊士時代にお世話になっていた産屋敷家から。
前御館様と、そのご姉妹。優しく耳に溶ける声は、相変わらずご現存のようだ。
「……詰まる話、実弥さんに結婚のお話があるのです。」
「……は?」
しまった。と思った頃には声が出ていた。
一度目は聞こえなかったであろう疑問の声も、今回ばかりは伝わってしまったようで。
「申し訳ございません、御館様……少し、驚いてしまいまして」
「実弥さん。もう、僕は」
彼の困った顔は、俺の失礼な受け答えに対するものではなかった。
……あぁ、そうか。鬼殺隊もない今、彼はもう。
「輝利哉様…………、大変有難いお話ですが、俺は……、俺は……」
段々と小さくなる声に、彼はまた困ったように笑った。
御側におられたかなた様とくいな様も同様に。見兼ねた二人が、それぞれ口を開く。
「お気持ちお察し致します。」
「私達が今こうして平穏な日々を送っているのも、全ては亡くなった隊士様のお陰です。」
「しかし、紡がれた命。それを新たな世代に託してゆくのもまた、私達の使命。」
交互に話す御二人の声が消える。
代わりに輝利哉様が微笑んで。
「…………何よりも、僕は……」
突然消え失せる声。何事かと顔を上げれば、輝利哉様は口を噤んで。先程の言葉を無かったことにした。
「───兎に角。我が産屋敷家のそう遠くない身内に、鬼殺隊の事情。そして何より、痣者の寿命をよく承知している家系があります。」
「入って」と輝利哉様が静かに言った。
「……っ、」
俺は一瞬、自分の目を疑ってしまった。
「……失礼します。」
美しい着物に身を纏った美しい女性。歳は俺よりも幾らか下だろう彼女は、その美しい声を恥じらうように声を潜めた。
「初めまして、不死川様。」
にこりと微笑んだ彼女。
美しい人を連れてきた、人生で何度目かの春だった。
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柚葉(プロフ) - 一気に読ませていただきました。涙がなかなか止まりませんでした。情景を浮かべると、もう涙が溢れてしまって…。義勇さんとのやりとりも、夢主さんへの想いも、もうたまらなかったです。ありがとうございました!!! (2021年5月3日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 占ツクでこんなに自然に涙が出た作品は初めてです。感動の一言では安いほどです。読んだこちらが幸せになる本当に綺麗な作品でした。これからも応援させて下さい。急な長文で申し訳ありません。ありがとうございました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
Rii(プロフ) - 初めまして。私も作者様と同じく最終巻の『子孫』という言葉に衝撃を受けた1人です。やっぱり同じ境遇の人いるよな、なんて軽い気持ちで読ませていただいてたのですが、読んでいくにつれて、作者様の言葉使い、ストーリー、表現力に本当に感動致しました。 (2021年1月24日 12時) (レス) id: ae2ab4d40a (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - めっちゃ泣きました。感動でした。ありがとうございました(*゚O゚*) (2021年1月3日 1時) (レス) id: f715447a21 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - レモン紅茶さん» コメントありがとうございます!!お、落ち着いてください……!?笑 語彙力の寄付、有難く受け取らせていただきます^^( そんなに褒めて頂けてとっても嬉しいです!! (2020年12月24日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2020年12月6日 17時