幕引きは君の手で ページ48
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自分でもつくづく都合のいいやつだと思う。キヨの好意を知った上で利用して、突き放して。
言い訳するつもりは無い。かと言って、キヨに不満がなかった訳でもない。
ワガママ、なのかもしれないけど。あの日。キヨに付き合うと報告したあの日。
…引き止めて欲しかった。
ただ一言で良かったから、好きだと言って欲しかった。
そうすれば、あんな馬鹿げたシナリオも何もかも捨て去って、喜んでキヨのものになったのに。
最後の最後まで、彼がその言葉を口にすることは無かったんだけど。
もしかしたら、そもそも私の事なんて好きじゃなかったのかもしれない。全て私の自惚れだった。
それなら、良かったのに。
｢二年前から、ずっと｣
確信に迫る“それ”こそ口にはしなかったけれど、今の彼の言葉の意図を汲み取れないほどの馬鹿ではない。
キヨの目線は、未だに景色を見つめている。月明かりに反射した目が、どうにも綺麗で──
｢……｣
誰、なんて聞けなかった。
もしかしたら別の人かもしれない。
そうは思っても、聞く勇気なんてなかった。
私にはもう、結婚を決めた人がいるのだから。
｢…Aだよ｣
｢え…？｣
｢ずっと、ずっとAが好きだった｣
｢…ううん、今も好き。｣
｢愛してる｣
もう時期旦那になる男にすら滅多に吐かれない甘ったるいその言葉を、キヨは平然と言ってのけた。
かと思えば、徐に体をこちらに向けて──
初めて
彼と目が合った。
肺に空気を入れるのも、やっとで。
｢…そう｣
長い長い沈黙の末に出た言葉は、それだけだった。
居心地の悪さから、思わず左手に光る銀色のそれをなぞった。
…私にはもう、永遠を誓ってしまった男がいるのだ。
遅かった。
全てが遅すぎた。
｢私は、｣
｢…好きだった、よ｣
文末の過去形は、ささやかな抵抗だ。
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作者名：ゆき
| 作成日時：2020年4月25日 11時
