一人芝居じゃ物足りない ページ45
.
『誰がためのエチュード』の続きです。
────────────────
数時間前のどんちゃん騒ぎは何処へやら。
大人六人が騒ぐには少しばかり狭いこの部屋は、すっかりと静まり返っていた。
歳だけは取るばかりなのに、みんな未だに中身は若者のままで。酒の飲み方だって数年前から一個も成長しちゃいない。
まあ、それでいいのだ。今日ばかりはそれでいい。
なんて言ったって、今日は特別な日だったから。少しばかり羽目を外しても、神様も何も言うまい。
…久しぶりに飲んだ酒は、何だか味がしなくて。違うな。久しぶりだからじゃない。今日なのがいけなかった。
完全に酔いきれなかった俺は、皆が寝静まったあともなかなか寝付けなかった。
そこら辺に雑魚寝してる人たちを起こさないように、俺はそっとベランダに出た。
東京では珍しい、綺麗に映えた満月だった。
街灯も、ビルの明かりも少ないこの景色は、俺の心をどこか安らかにさせて。ぼんやりと見ているうちに、景色が滲んでいくような。
…涙だった。
しかし、そうであると気づくのはかなり時間が経ってからのこと。
それ程に、何だか地に足がついてない感覚に襲われていた。
それもこれも、全部──
ガタリ、と部屋の方から音が聞こえた。
誰か起こしてしまったのだろうか。
確認しようと思ったけど、それすらも面倒くさくて。結局ここに居座ることにした俺が、その音の正体に気づくのは時間の問題だった。
｢…キヨ？｣
寝ぼけてるのだろうか。
ふわふわとした声が、俺の名前を呼んだ。
｢悪い…起こしたか？｣
｢ううん。私もあんまり飲んでなかったから、眠れなくて。｣
そう言って彼女は。
Aは、俺の横にやってきた。
やけに空いた距離が、もどかしい。
｢今日は、ありがとね｣
｢…別に｣
｢皆に一番に報告出来て良かった。｣
そう。今日は特別な日だった。
“私達、結婚します”
数時間前のAの声が、ふと頭の中に響いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 163人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆき
| 作成日時：2020年4月25日 11時
