私なりの逃避行 ページ41
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居心地の悪さに、私の視線は忙しなく動くばかり。それがキヨくんに向けられることは決してない。一度でも目が合ってしまえば、きっと──
そもそもどうして後輩のキヨくんと二人で、しかも彼の家で宅飲みをしているのか。
遡ること数時間前のことだ。
今日は元々、キヨくん含めた数人のメンバーで飲み会をする予定だった。…しかし、その内のほとんどがまさかのドタキャン。
その報告のLINEを見たその他数名も｢今日はやめとく｣とのこと。
十分前行動を死守してきた事がまさか裏目に出るなんて。
本来待ち合わせだったはずの駅前で、私とキヨくんの二人きり。
ここは年上として、気を利かせて｢一杯おごるよ｣とでも言えばよかったのか。
どうしようかと悩んでいた私に、キヨくんはただ一言。
｢俺ん家で飲みましょうよ｣
と。
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わかっている。断ればよかった話だ。
しかし私はどうにも押しに弱い人間だった。これがキヨくん以外でも、結局断りきれずにこうなってただろう。
そもそもキヨくんは、直接的にはあまり関わりのない後輩だった。
友人の友人の後輩。くらいのポジションに居た彼と二人きりなんて場面は今まであるはずもなく。
｢大分話しちゃいましたね｣
｢そう、だね…｣
そう言われて、ふと時計に目をやると時刻は午後11時頃。私たちが集まったのは午後7時頃だったから…。うん、大分話したな。
キヨくんとの会話は、飽きることは無かった。現に時間を忘れて話し込んでしまったし。
…しかし、気が休まるものでもなかった。
常に私から話を振ってるし、それに繋げてキヨくんが広げてくれる。
しかし、主導権を彼に握らせたら終わってしまう。何がと言われれば、答えにくいのだけど…。
｢Aさん｣
忙しなく動き続けていた私の目線が、止まった。
どこを見つめてるわけでもなく、止まってしまった。
普段よりも何トーンも低いその声は、私を黙らせるには十分すぎた。
これは、まずい。
｢Aさんって、彼氏いるんですか？｣
酔っ払ってるくせに、彼はやけに落ち着いた声色でそう尋ねた。
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作者名：ゆき
| 作成日時：2020年4月25日 11時
