転換 ページ38
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｢うわ、また負けたよ｣
｢うっしーが弱すぎんだって｣
うるせえと肩を殴ると、キヨはヘラヘラと笑う。
笑っている。
…本当に笑ってるのか？
｢てかさぁ｣
下手くそな話題転換の合図を口にした。なにも気にしてないような素振りだけど、内心は冷や汗だらけ。
｢どこ行ったのかな、レトルト｣
あくまでも世間話で。ついでに聞いた感覚で、スマホの片手間にそう問いかけた。
｢あー…｣
数拍遅れで帰ってきた返事は、びっくりするほど興味のなさそうな声。
キヨの顔は、見られない。
俺の目線はスマホに落とされたまま、上がることは無かった。否、上げられなかったと言うべきか。
｢心配だよな｣
｢…あぁ｣
嘘、だ。
心配なんかしていないくせに。
俺は、知っている。
キヨがしたことを全部、知っている。
数日前、俺たちの実況仲間であったレトルトが突然姿を消した。
いくら友達といえども、住んでる場所もバラバラの俺らが、彼が消えたと認識するのはかなり時間が経ってからだった。
レトルトへのトーク画面には、未だに既読のつかないメッセージが数十件と連なっている。
そんなレトルトには、それはそれは可愛い彼女がいた。もちろん、あいつがそれを隠す訳もなく、よく俺達に話して聞かせたりしてくれて。
実際に俺も何回かあったことがあるが、あぁなるほど、と。
これはレトルトが惚れるのも無理はない。それくらいに素敵な女性だった。
…この時からだったかな。
キヨはレトルトの彼女だと言うのに、やけに個人的に連絡を取ろうとしていた。
倫理的にそれは如何なものかと。俺やガッチさんから注意したこともあったけど、｢親友の彼女とコミュニケーションとるのは大事だろ？｣とのこと。
…これも大嘘だった。
人の気持ちを汲み取るのには、長けてる方だと自負している。
いや、俺じゃなくとも。誰がどう見てもキヨはAさんに好意を抱いていた。
それはもう、言葉には言い表せないほど情熱的に。
そんな日々が続いていた頃だった。
レトルトから、彼女がストーカーにあってると相談されたのは。
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作者名：ゆき
| 作成日時：2020年4月25日 11時
