やさしいおおかみさん ページ19
.
｢…私、タクシーで帰ります。｣
｢タオル貸して下さり、ありがとうございました。｣
このタオルはどうするべきか。洗って返すべきなのか、タオルくらいならこの場で置いておくべきなのか。
そんな事を考えていると、キヨさんがびっくりしたような顔でこちらを見ていた。
何か変なことを言ってしまったのだろうか。
｢…いや、どう考えても危険だろ｣
キヨさんが言うことも、一理ある。
そもそも、タクシーだって止まってるかもしれないのに。
｢じゃあ、落ち着くまでここにいていいですか？｣
ヘラりと笑って、そう答えた。
多分それが最適解だったから。
今の私、化粧とれてないかな。不細工じゃないかな。
なんて、そんなことを考えながら。
｢泊まってけば｣
｢…へ？｣
一瞬、頭の中が真っ白になった。
いや、きっと彼はそういう気持ちでそう言った訳ではない。そんなこと、百も承知だ。
ただ、倫理的にそれはどうなんだろうか。
成人した男女が。ましてや交際関係にない男女が、ひとつ屋根の下で一晩を共にする…なんて。
そういった経験が全くない訳では無いけれど、それでもやはり些か抵抗が残った。
私の思考が思春期すぎるのか、なんて自問を繰り返しながら、返答を探した。
｢…えっ、と…｣
しかし、最適解は見つからない。
あぁ、もっと大学時代にこういう場を経験しておくんだった。
いつも母が設定した中学生レベルの門限を馬鹿みたいに守ってたから、こうなるんだ。
｢お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですから｣
まだ時計の針は十時を過ぎた頃。
帰れる。大丈夫。
タオルを近くのテーブルに置き、鞄を持って玄関に向かった。
ドアノブに手をかけたその瞬間、その手の上からキヨさんの手が包み込んだ。
｢馬鹿っ、変なことしねえから黙って甘えとけ｣
｢へ、変なこと！？｣
｢あーそーだよ、変なこと｣
私が嫌がる理由を察したのか、キヨさんは恥ずかしげもなくそう言ってのけた。
私一人だけ気にしてて、何だか恥ずかしい。
｢明日も打ち合わせなのに、風邪引かれたら迷惑なんだよ｣
そう言ってキヨさんは背を向けた。
私は、ドアノブから手を離した。
｢…じゃあ、よろしくお願いします｣
｢おー｣
彼の考えていることは、よく分からない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 163人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆき
| 作成日時：2020年4月25日 11時
