またねがあれば ページ16
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｢…なんであの時、急に居なくなったの？｣
もちろん、一番に聞きたかったのはその事だった。
Aと別れてから、俺もそれなりには出会いと別れを繰り返してきたけど。
誰と付き合ってても、必ず脳裏に焼き付いて離れなかったのはAだけだった。
気まずそうに、自分の手元を見つめるA。
1分。いや、もっと経っただろうか。
重く閉ざされたAの口が、ゆっくりと開いた。
｢…キヨ、が｣
久しぶりに聞く、俺を呼ぶ声。
｢キヨが…実況やめちゃうと思って｣
その答えを、すぐに理解することは出来なかった。
｢どういう、こと？｣
一つ一つ、単語を丁寧に繋いでいたAの喋り方が、変わった。
｢あの時、キヨ就活してたでしょ？｣
｢私との結婚考えてるから、真面目に働きたいって｣
｢私、ビックリしちゃって｣
あぁ、そんなこともあったっけ。
なんて、他人事のように過去の自分を思い出した。
大学四回生の頃は、周りもほとんど職を探し始めていた。
あの時の俺は、多少有名になったとはいえそれで食えるほど人気ではなかった。
そもそも、時代が今ほどネット活動に寛容ではなかったから。
Aを、不幸にさせたくなくて。
俺は実況を辞めると、言ったことがあった気がする。
｢私、キヨのことずっと見てたよ。｣
｢やっぱり、自分のしたいことしてるキヨが、一番好き。｣
｢私のせいで、キヨを縛りたくなかったの。｣
不意に、終電の到着を告げるアナウンスが鳴った。
ぶわり、と電車が二人の髪を巻き上げる。
まだ、夢を見ているようだった。
微睡んだ空気の中、Aに声をかける気も起きなくて。
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作者名：ゆき
| 作成日時：2020年4月25日 11時
