根拠の無い ページ6
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「A……、本当に帰り一人で大丈夫?」
「大丈夫だって。ほら、お爺さん待ってるでしょ。」
自分の用事があるにも関わらず他人の心配ばかりをする───ここ一年と少しを一緒に過ごした私の中の悠仁は、つまりそう言うお人好しな奴だった。
今だって、いつもなら終業のチャイムと同時にいの一番に駆け出す彼は中々この場を退こうとしなくって。
再度念を押すように「大丈夫」とだけ告げれば、最後までその思案顔を崩すことなく足早に去っていった。
早く行けっての。……あぁほら、振り返ったりするから躓いてんじゃんか。小学生じゃないんだから、別に帰り道くらい一人で平気だ。
───さて、この行動をものの数分で後悔することになるとは誰が思ったろうか。
「……。」
一人で歩く帰り道ほど虚しいものってない。
去年は一緒にいた野薔薇も数ヶ月前からは彼氏と仲良く帰っているらしいし、伏黒は相変わらずお姉さんにべったり。意外と可愛いところあるんだよなあ、と余計なことを考える余裕なんて、本当はないのだけれど。
「お前、帰り道には気をつけろよ。」
静かな道に落ちる私の足音と、時々頭上を通り過ぎる烏と、頭に反響してやまない虎杖弟のあの言葉。
まさか、と思う。
まさかたったの数分言葉を交わしただけの人間に、そんな執着をする訳が無いと。
「…………っ、」
気持ち早めた足と、それに少し遅れてから乗じるまた別の足音。
気の所為、と言えたならそれに越したことはないのだけれど、現実はそう甘くない。
本来の帰路とは逸れたコースをグルグルと周り、先程から何度も同じ大通りに出ては進んでの繰り返し。
言わば意味を為さない私のこの行動を真似ているということは、つまり“そういうこと”で。
どうすれば、いい。
あまりの恐怖に振り返ることは出来ないが、昨日の今日を鑑みるにその人物はきっとあの男だ。
やはり舐めた態度を取られたことに腹を立てたのだろうか。……にしても、やり方が古典的というか何と言うか。
下手に家を知られても困る。
が、このまま警察につっきったところで逃げられるのがオチだ。
「───あの、」
決まって、根拠の無い自信だけが私にはあって。
「何か用ですか。」
振り返って、足音の方へ突き進む。
そうして私は、再び自分の行動に後悔することとなるのだ。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時