ぽろぽろ ページ34
.
ごめんと声が揺れた。
それがただの震えじゃないような気がして思わず振り返った先、Aがポロポロと涙を流しているのが見えて。
───当初、俺は務めてAとの関わりを避けていた。
理由なんて一つしかない。
ただ、彼女を傷つけたくなかったんだ。
悠仁の隣で笑う彼女を見て俺は一瞬にして悟った。橘Aの隣を、俺は歩いてはいけないと。
疑いようのない善人だった。悠仁が可愛がっている理由がよくわかる、そんな人間だった。
何度突き放しても、Aは俺に笑いかける。
お得意の阿呆面で、何度も何度も俺の隣を歩こうとする。
そんなAの笑顔に苦しめられる時が来るなんて、俺は思ってもみなかった。
Aは目を覚まして開口一番に大丈夫かと俺に尋ねたのだ。
自分の方が辛いはずなのに。巻き込まれたのはお前の方なのに。それでもAは、苦しいと言った俺の顔を見て安心させるように笑いかけてきたのだ。
「ごめん、……ごめんね、」
───そんなAが、泣いている。
一つ、また一つとシミを増やしていく布団。
どうしたと問いかけれど、何も言わずに首を横に振るだけ。
何故。なんで、どうしてお前が謝る必要があるんだ。
本当に謝らなければならないのは、俺の方だと言うのに。
「何のことか分からんが泣くな」
期待。ほんの少しの期待だ。
俺にも、お前の隣を歩けるんじゃないかって、そんな馬鹿みたいな期待をしたのが間違いだった。
結局、俺は彼女を傷つけた。
中途半端な決意を持ったまま、何者にもなりきれずに。
「だ、って……だって、宿儺は悪くないもん」
「……。」
「私が勝手に入っただけなのに、私が勝手にっ、」
「わ、わかった。分かったから落ち着け。あまり目を擦るな。」
ゴシゴシと強く押し付けた手を握って止めたが、Aの涙は一向に止まる気配はない。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
涙が枯れて、果てには目の前の彼女が消えてしまうんじゃないかなんて飛躍した不安がふと頭を過って。
仕方がないから、俺は控えめに彼女の頭をそっと抱き寄せた。
「……泣くな……、」
生憎、泣いてる女の慰め方なんて知らない。
これでいいのだろうかと思いつつも、小さい頃に爺さんにやってもらったよう、心音と同じリズムで彼女の背を撫でた。
首元に触れた体温が、少し、くすぐったくて。
.
680人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時