ヒール ページ33
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勢い着いた扉の開く音。
入ってきたのは私の両親で、カツカツとヒールを鳴らして近づく母親の顔に私への心配の色は見えなかった。
心配、と言うよりは、何かに腹を立てているようなそんな。
私の親だと気がついたらしい宿儺が、挨拶をするべく立ち上がった。
のだが。
「ッ、……」
パシィィン……、と、それはそれは盛大に皮膚の弾かれる音が病室内に響き渡ったのである。
母が、宿儺を引っぱたいたのだ。
「……アンタのせいよ」
「……。」
「アンタみたいな不良がAに関わったから、こんな目に遭ったんでしょう!!」
宿儺は何も言わない。否、何も言えないのか。
ぎゅうと握る手に力を込めて、何かを思い詰めるように下を向いて固まった。なんで、そんな。何も知らない母の言葉なんて、気にしなくてもいいのに。
争い事が嫌いな父は、憤った母を傍で宥めて。しかし勿論、母は引かなかった。
「謝りなさい」
「お母さん……違うの、宿儺は」
「あんたは黙ってて!!ほら!!謝りなさい!!」
私の言葉さえ聞かず、怒りをぶちまける母。
宿儺は震えた息を吐いて、固く閉ざされた唇を、薄く開いて。
「…………すみま、」
「──謝らないで!!!」
言葉を言い切るより先、私が声を荒らげて。
「宿儺、謝らないで。
お父さん、お母さん。お願い、話を聞いて。」
「A……あんた何言ってんの?この不良のせいで巻き込まれたのよ?」
「違うの!!私が勝手に入り込んだだけ。宿儺は何も悪くないの。」
「……A、」
声を張り上げた私を驚くように見つめていた宿儺と目が合った。
「A……いいんだ、俺が、全部、」
「違うったら違うの!!私が!!……っ、私っ、が……」
目が覚めてから急に叫んだからか、乾いた喉が張り付いて思わずむせ返ってしまった。
一番傍に居た宿儺が心配そうに覗き込み、優しく背を摩りながらテーブルにあった水を手渡してくれた。
「……母さん、Aもこう言ってることだし。」
その一部始終を見届けた父が、今一度母を落ち着かせてくれた。頃合いを見て入ってきた看護婦が、話があるからと両親を呼び出して。
勢いは落ちたものの未だ怒り覚めやらずな母は、最後の最後まで宿儺を睨みつけて部屋を出ていった。
二人きり。沈黙が、苦しい。
「…………ごめん、ね。」
苦しい。
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眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時