二人きり ページ23
.
昼過ぎにこの家に来たはずなのに、気づけば窓の外には夜の帳が下りていた。
「虎杖弟の教え方めっちゃ上手い……終わった……数学の課題が終わったよ……!!」
「良かったな」
言葉上素直な返事に聞こえるが顔には疲れの色が盛大に現れている。理由は私。
彼の教え方はそれはそれは分かりやすかったが、私の脳内CPUのスペックが低すぎて理解に時間がかかった。
三問連続で判別式の不等号を逆にした時はまじで殺されるかと思った。目が完全に殺る奴の目だったね、あれは。
「あーー、疲れた……」
「……。」
ぐーっと伸びをして息を吐きながら机に突っ伏した。
……あれ。てっきり、「阿呆に付き合わされた俺の方が疲れた」なんていつもの嫌味が帰ってくると思ったのに。
虎杖弟は眉間に皺を寄せたまま、一向に口を開く気配はない。
……まさか、返事も出来ない程疲弊したとでも。
「……悪かったな」
「え?」
「俺がいて、悪かったな。」
───悠仁が家を出てから数分が経った頃になって、虎杖弟は急にそんなことを言い出した。
帰る時間の迫る中、最初にご飯を食べていくかと申し出てくれたのは悠仁で。そしてこんな奴に出す飯は無いと嫌味をかましたのは弟。
今回ばかりは弟の意見に一理を見出さざるを得ず、一度は遠慮したのだが優しい悠仁が引き下がってくれるはずもなく。
結局ご飯をご馳走してもらうことになり、足りない食材を買いに出かけた悠仁はまだまだ帰ってきそうにない。
「……ごめん、何の事?」
話を戻そうか。
虎杖弟は『俺がいて悪かった』と確かにそう言った。色々な情報が欠落したその一文を察してやれるほどのスキルが私にはなくって、不躾にも思ったことをそのまま聞き返せば、
「……悠仁と二人きりが良かっただろ」
「……へ?」
躊躇いがちに、小さい、声。
行き場のない視線は外された眼鏡に落ちている。そうして私の間抜けな声を最後に沈黙が降りる。
……もしかして、だけど。
本当にもしかしてだが、この男。
「えっ、と……もう少し聞いても?」
「はあ?」
分かっている。
相手が濁していることを遠慮もなく尋ねるのは宜しくないと知っている、けど。
「お前、悠仁のことが好きなんだろう。」
……、うん。
やっぱり、この人、
「いや……好きじゃないけど」
随分と飛躍した勘違いをしていらっしゃる。
.
681人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時