不変の事実 ページ12
.
恐怖なんて感情はとうの昔に消え去っていた。
今はただ彼がここにいる事実と、「遅い」という言葉が示す意味を咀嚼するのに精一杯で。
「え、……なんで?帰ったんじゃ、……」
「怪我の具合は」
「え、あ、はい、大丈夫ですが。」
「そうか」
「はっ、……え?え?」
自分から問いかけておきながら、虎杖弟は私の返事を聞くなりふいと視線を逸らして足を進めた。
着いてこいの合図なのか、数歩進んでは振り返り、早くしろと言わんばかりにじっと睨みをきかせて。
仕方がないから、小走りで彼の後を追って。
……一体なんと形容すべきであろうか、この空気感は。
昨日の敵は今日の友、ということか。多分違うだろうけど。
流石の私も恩人に喧嘩を売るような無礼な女じゃない。此奴が居なかったらどうなってたか分からないし、そもそも再三言うように悪いのは私だし。
「……ったく、あんな雑魚にやられてどうする」
一言多いって。
「そもそもの話だ。言ったはずだぞ、帰り道に気をつけろと」
「あれそういう意味だったの!?」
「それ以外なんの意味がある」
「俺が殺しに行くから首を洗って待ってろとでも言われたのかと」
「……阿呆もここまで来ると笑えてくるな。」
と言いつつもピクリとも笑わない虎杖弟。表情筋息してる?
「悠仁はどうした。」
「どうしたも何も、お爺さんのお見舞いだよ。聞いてないの?」
「……あぁ、そう言えばそうだったか。」
「あんたねえ……、」
もう何を尋ねるのも億劫だったから、私は眉をひくつかせるだけひくつかせて小さく息を吐いた。
まあ多分、そういうことだ。
きっとお見舞いだって悠仁に全て押し付けているんだろう。
結局どんな前提が立ちはだかろうと、彼が不良であると言うのは不変の事実であり。
掘り返すようだが、故に人に恨まれ故に私は巻き込まれた。
そうだよ、0から100まで私が悪いわけじゃないじゃん。
「……あ、ねえ。」
そうそう、言わないといけないことがあったんだ。
意味ありげに後を引く私の声を聞き、「なんだ」と虎杖弟が素っ気なく答えた。
「助けてくれて、ありがとう。」
───誰が悪いとかの前に、今はただ目の前の彼に感謝を。
虎杖弟の目が、僅かに開いた気がした。
返事はしなかった。ただ、ふんと鼻を鳴らして前を向く彼が、何となく“らしい”と思って笑ってしまって。
.
681人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
眠民。 - 完結おめでとうございます!!私は虎杖ガチ勢(既視感)なのですが、ゆきさんのお話がきっかけで宿儺沼にもハマりかけています‥!受験生なのに神作品ありがとうございました!頑張ってください!!応援してます~!! (11月26日 14時) (レス) id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
シロツメココロ - 完結おめでとうございます! ゆきさん小説が私の宿儺推しに目覚めさせてもらったキッカケです。もう、宿儺小説を読み漁って漁って……次回は夏油さんですか!頑張ってください。受験…私も来年通る道です。応援しています (2021年3月17日 18時) (レス) id: a3d2b1e1b5 (このIDを非表示/違反報告)
琴吏(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ゆきさんの書く宿儺と悠仁が大好きです、、泣 宿儺が幸せな恋を描いて下さりありがとうございました! (2021年3月17日 14時) (レス) id: 94ce9bc83e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちっぷさん» ちっぷさん!コメントありがとうございます!!前も言ったかもしれませんが、ちっぷさんは宿儺メインを書くきっかけになった方と言っても過言ではありません!新たな可能性を与えてくれて本当に感謝してます!最後までお付き合いありがとうございました! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 麦茶さん» 麦茶さん!沢山のコメントありがとうございます!!とっても励みになりました!やっぱ皆宿儺様好きなんだなあって……笑 こちらこそ、貴重なお時間をこのお話に割いて頂けて嬉しいです!! (2021年3月16日 22時) (レス) id: 19e6a01ed0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月25日 23時