【呪術廻戦】双子の弟がいるとか聞いてない。【両面宿儺】

見慣れた桜色 ページ8

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───呼吸をしていいのだと、気がついた頃には全て終わっていた。


いつの間にか地面に伏した男たちと、ただ一人立ちつくす影。


癒えぬ痛みを抑え込むように腹に手を当てながら、恐る恐る顔を上げる。
そうしてやはりそこに認めるのは、見慣れた桜色と、見慣れぬ男の顔。


噂通り、悠仁と瓜二つな目鼻立ち。しかし、彼の顔を見ても直ぐに悠仁の顔が頭に思い浮かばないのは、彼の纏う空気が悠仁よりも遥かに恐ろしく感ぜられたからで。




｢おい｣


｢……っ、な、に？｣




ふ、と上げられた彼の左手に、反射的に『殴られる』と脳が判断して声が震える。

体を丸め込むように言葉だけを返せば、彼は少し考えるように視線を彷徨わせて。






｢お前を殴ったのはこいつか？｣





げしげしと足で転がしながらそう尋ねてくるから、私は小さく頷いた。





｢っ……まっ、て！何するの……？｣


｢決まっているだろう。相応の罰を受けてもらうだけだ。｣


｢そ、それ以上やったら、その人、死んじゃう｣


｢……阿呆か。こんなもので死にはせん。｣







突然に現れた彼と、突然に倒れていった男たち。

腹の痛みもあってか、その全てに脳が追いついていなかったがどれ程の力で殴り飛ばしていたかはぼんやりと記憶している。

……流石は、有名なだけある。



人の顔面を殴ることに一切の躊躇いがなかった。

人の血を見ても、一切の同情も、何も。





｢……はー……、｣





まさに殴らんとしていた彼は、掴んでいた男の胸ぐらを離して大きく溜め息をついた。

同時にどさ、と音がして男が倒れる。……大丈夫、だよね？死んでる、なんてことは……。






｢気絶したふりは辞めろ、不愉快だ。｣


｢……っ、｣


｢二度とこの女に近づくな。分かったらさっさと去ね。｣






最後の二文字で、どんと空気が揺らいだ気がした。

彼の言うとおり気絶したふり、をしていただけの男たちは一目散にこの場から走り去って言った。

言われてないのに私までこの場にいてはならないような気がして、逃げ場のない視線を適当に泳がせては彼に見つめられて仕方なくて。



助けてもらった。

何もかもが追いつかない脳でも、それだけは確かに分かる。分かるのだが。




さっき殴られたばかりだからか、今の惨劇を目の当たりにしたからか。私の防衛本能が声高に叫んで、ギュッと全身の筋肉を強ばらせる。




──今はただ、この男が怖かった。




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