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夢の続きを曖昧に塗り広げるように、私の開いた瞳は世界を目の当たりにした。
真っ白な世界。
ふわふわと覚醒しきらぬ頭で考えても答えは出ない。
何をするにも気力が起きなかったので、視線だけをゆっくりと左右に揺らす。
チラつく点滴。あぁ、耳に残る水温はこれだったか。
痛む頭を抑えながらゆっくりと体を起こした。
頭痛、節々の痛み、全身の筋肉の妙な倦怠感。
ここがどこなのだと言う思考を働かせるより先、甲高い声が遠くの方で一つ鳴った。
「……お目覚めに、なられたんですか?」
まるで化け物と対峙したような驚きを貼り付けた白衣姿の女性が問いかける。
ぼんやりと世界が滲んだ。
私は自分さえもよくわからないままに、ただ彼女の言葉に頷いて見せた。
*
一人にしては少し広めのベッドの寝心地は上々。
温もりの残るシーツを撫でて、頬を掠める風に目をやった。
孕んだカーテンの隙間から見えるは美しい紅葉。
思えば風も秋の匂いを帯びている。
あの後、遅れてやってきた医者から、寝起きの私には少し酷な話を告げられた。
聞けば、私は強く頭を打ってから数カ月もの間眠り続けていたらしく。
言われてみれば只事ではない頭痛も、全身をピリピリと刺激する凝りも、それを受け入れれば全て辻褄があってしまう。
「お気分はどうですか。」
「……まあまあです。」
「記憶の方は、大丈夫ですか。」
「…………記憶」
その一言で、私は心に引っかかっていた違和感に辿り着いた。
そしてそれを解明するよりも先、「起きたばかりですし、多少混乱してても心配しなくて大丈夫ですよ。」と看護師が言う。
記憶、か。
「───いえ、大丈夫です。」
長い、長い夢を見ていたような気がする。
まあ、それもそうか。数カ月眠っていたんだから。
「お名前は?」
「橘Aです。」
「年齢は?」
「……今年で16。高校一年生。」
「うん、大丈夫そうですね。」
あ、それと。
と、看護師が思い立ったように部屋の隅にあるハンガーラックから服を取りだして私にみせた。
高校の制服だ。少し汚れた、“セーラー服”。
「一応の確認です。貴方の高校名は?」
頭痛が酷い。
私は、そっと目を閉じた。
「─────高校です。」
看護師は、満足そうに笑っていた。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時