検索窓
今日:62 hit、昨日:30 hit、合計:606,375 hit

34. ページ36

.






やめましょう、と。

昔と何も変わらない優しい彼女の声が揺れた。





「私はこれ以上、貴方が人を傷つけるとこなんて見たくないんです。」





久しぶりに感じる彼女の温もりは、やっぱり無遠慮に俺の琴線に触れてくる。

俺は抱きしめ返すことも出来ないまま、ただ目の前で悲しそうに訴える彼女を見つめていた。




いつからこうなってしまったんだろうか。

いつから、彼女を苦しめる原因が俺へと変わってしまったのだろうか。




もう何もかもが遅すぎる現実に目を閉じて、俺は息を吸った。





「無理だ。」





小さな、小さな嗚咽が聞こえたような気がした。

すまない。俺はもう、君のその涙を拭ってやれない。






「俺の行き着く先は決まっている。」






何ものにも変え難いたったの数年を君と過ごして。

貴い感情を抱いた。



それでも世界は俺たちを拒んだから、俺は千年前に人間としての生に背を向けた。

呪いとして永遠を与えられた。





「人を殺した。お前が思うような数じゃない。

今この俺の存在を支えているのは、俺が殺してきた生き物たちの呪いの産物だ。」






想いは不変だ。

いや、きっと時を重ねれば重ねるほどに濃く、太く紡がれていく。


千年。君への愛が絶えることは無かった。

千年。俺への呪いが尽きることは無かった。




俺には、犯した罪が、多すぎた。





「退けど進めど。

俺を待っているのは、果てしない地獄だけだ。」





彼女が大きく肩を揺らした。

なんで、どうして、と一文にもならぬ言葉がぼろぼろと涙のように滑り落ちていく。




なあ、なんでお前がそんなに苦しそうな顔をしているんだ。

元来、お前は呪いを憎み、罰するべきだろう。



それなのに、俺なんかに同情して、どうするんだ。






「じゃあっ、……っ、私も、行きます。」


「…………、お前」


「地獄だろうが何だろうが貴方の傍にいます……!

貴方が苦しむのなら、その罪を、私も一緒に、」



「ならん。」






最後の言葉が口から出るよりも先、俺は一つ、声を落とした。





疑いようのない善人だった。

昔も今も何一つ変わっちゃいなかった。



でも、まあ。

そんな心優しい君だから、俺は、多分。






「己の罪は、己で背負う。」






お前は、俺の最後の希望だ。

この救いようのない残酷な世界で唯一見つけた光。





「さよならだ、小娘。」




本当にこれが、最後だった。



.

35.→←33.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (931 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1628人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 両面宿儺   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。