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やめましょう、と。
昔と何も変わらない優しい彼女の声が揺れた。
「私はこれ以上、貴方が人を傷つけるとこなんて見たくないんです。」
久しぶりに感じる彼女の温もりは、やっぱり無遠慮に俺の琴線に触れてくる。
俺は抱きしめ返すことも出来ないまま、ただ目の前で悲しそうに訴える彼女を見つめていた。
いつからこうなってしまったんだろうか。
いつから、彼女を苦しめる原因が俺へと変わってしまったのだろうか。
もう何もかもが遅すぎる現実に目を閉じて、俺は息を吸った。
「無理だ。」
小さな、小さな嗚咽が聞こえたような気がした。
すまない。俺はもう、君のその涙を拭ってやれない。
「俺の行き着く先は決まっている。」
何ものにも変え難いたったの数年を君と過ごして。
貴い感情を抱いた。
それでも世界は俺たちを拒んだから、俺は千年前に人間としての生に背を向けた。
呪いとして永遠を与えられた。
「人を殺した。お前が思うような数じゃない。
今この俺の存在を支えているのは、俺が殺してきた生き物たちの呪いの産物だ。」
想いは不変だ。
いや、きっと時を重ねれば重ねるほどに濃く、太く紡がれていく。
千年。君への愛が絶えることは無かった。
千年。俺への呪いが尽きることは無かった。
俺には、犯した罪が、多すぎた。
「退けど進めど。
俺を待っているのは、果てしない地獄だけだ。」
彼女が大きく肩を揺らした。
なんで、どうして、と一文にもならぬ言葉がぼろぼろと涙のように滑り落ちていく。
なあ、なんでお前がそんなに苦しそうな顔をしているんだ。
元来、お前は呪いを憎み、罰するべきだろう。
それなのに、俺なんかに同情して、どうするんだ。
「じゃあっ、……っ、私も、行きます。」
「…………、お前」
「地獄だろうが何だろうが貴方の傍にいます……!
貴方が苦しむのなら、その罪を、私も一緒に、」
「ならん。」
最後の言葉が口から出るよりも先、俺は一つ、声を落とした。
疑いようのない善人だった。
昔も今も何一つ変わっちゃいなかった。
でも、まあ。
そんな心優しい君だから、俺は、多分。
「己の罪は、己で背負う。」
お前は、俺の最後の希望だ。
この救いようのない残酷な世界で唯一見つけた光。
「さよならだ、小娘。」
本当にこれが、最後だった。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時