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再びこの世界で目を覚ました時。
小僧の体の中であの女を見つけた俺は分かってしまった。分からなければならなかった。
───橘Aは、紛れもなく彼女の生まれ変わりだ。
姿形が似ているだけでない。
魂そのものが、溜め息をつきそうになるほどに綺麗で、確かに千年前に俺が愛したあの人のものに違いなかった。
どうして、呪われて死んだお前が今世は自ら呪いと対峙しているのだ。
何年経とうが、世界は変わらないらしい。
俺が。彼女が幸せになる未来など、到底見えなかった。
世界はまだ、俺を呪うというのか。
俺が愛した彼女までも。
お前に会いたいだとか。
お前と二人、また静かに幸せに暮らしたいだとか。
そんな人並みの幸せは、とうの昔に諦めた。
「呪術師なんて、辞めてしまえ。」
──俺はただ、お前に呪いを知らず生きていて欲しいだけなんだ。
呪われたこの身では、お前を幸せにすることは到底叶わない。
お前が幸せになる未来、隣にいるのは俺ではない。
でも、それでいい。
呪いなんて縁遠い場所で、何も知らずにいつもの阿呆面で笑ってくれればいい。
お前と、お前の愛した人間とその家族は、俺がきっと呪いから守ってやろう。
本当は明日も明後日も君と笑い合うつもりでいた。
人里離れた山の中、君と二人静かに人生を終えるつもりでいた。
本当に。本当にその思いに、何一つ偽りなどなかった。愛していたから。
でも、世界はそれを許さない。
俺は人間に戻ることはないし、お前はいつまでも呪われたまま。
この先、俺たちは交わることは無い。そしてそれはどこまでも正しくて。
「もう二度と、ここへは来るなよ。」
終ぞ、俺は何を伝えることも出来なかった。
伝えるべきではなかった。
お前はここへ来るべきじゃないし、俺はそちら側へは行けない。
俺は今、俺が殺してきた死屍累々の屍の上に立っているのだから。
俺の背中にはいつだって呪いが纏わりついている。
「幸せになれよ。」
愛していると、言うには足りない。
1000年前と俺は何一つ変わらなかった。
君に伝える勇気がなかった。君に伝える資格なんて、俺には。
───俺を許さなかったのは、俺だ。
世界じゃない。
誰よりも自分が許せなかった。
だから、どうか。
俺の最後の強がりだと思って、君だけは、どうか。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時