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毎日毎日食事を運んできた人間が消えた代わりに、女はその小さな手で男のために料理を作りました。
そしてまるで普通の夫婦のように、朝夕の挨拶を交わすのです。
厄介な者が来た、と男は思いました。
それと同時に、放っておけば恐怖で己の前から逃げ出すだろうとも思いました。
男はまるでその女を相手にしなかったのです。
しかしその娘、とんだ肝の据わった持ち主で、一ヶ月、二ヶ月と男の傍を離れる気配はまるで見えません。
それどころか男に屈託のない笑顔で笑いかけてくるのです。
男は戸惑いました。
初めて言葉をかけ、笑いかけてくれた女に酷く困惑しました。
ある晩になって、男の方から「俺が怖くないのか」と尋ねました。
女は「どうして」と不思議そうに聞き返します。
「見ればわかるだろう。この呪われた体を。」
そう言っても尚、女は分からないと言ったふうに首を捻るのです。
「でも貴方、何も悪いことしちゃいないじゃないですか。」
男は驚きました。女は何食わぬ顔で続けます。
「毎日私のご飯を美味しそうに食べてくれるのも、朝起きておはようと挨拶を交わしてくれるのも貴方だけです。」
「貴方のような優しい人、私は他に知りません。」
男の方も、初めて善人と言うものを目の当たりにしました。
人間は皆自分の都合のいいように考える。
ただ見た目が恐ろしいからと、自分を諸悪の根源であるかのように謳い出す。
しかし、女は違いました。
彼女だけが、男の本当を知っていました。
男を真に理解してくれた、たった一人が彼女だったのです。
男は彼女の陽だまりのような優しさに触れ、自身が人間であることを思い出しました。
それから、二人は仲睦まじく暮らしました。
日々の些細な幸せを分かち合い、季節の訪れを感じ、ただ静かに暮らしていました。
そうして、女が来てから数年目のある夏の日のことです。
嫌に盛った、暑い日でした。
女が買い出しに行くと出たきり、帰ってこないのです。
夜が更け、朝日が昇っても帰ってこないのです。
不安になった男は、その日初めて自分の足で蔵から抜け出しました。
村人は男を見るなり声を上げて怯えます。そして、男が彼女のことを聞くよりも先、震えた声でこう言うのです。
「あの女は、私達が責任をもって始末しました。」
女は、死んでしまいました。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時