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「ち、がう……」
吐息かと疑ってしまうその小さな声にも、宿儺はぴくりと眉を揺らして反応を示した。
「そんなの、違う。」
彼の今までの述懐に、何一つとして違うことなんてなかった。
呪いは人の心から生まれる。私たち人間は互いに互いを苦しめ合いながらここまで来ている。
それ、でも。
「目には目を、歯には歯を。
……呪いには呪いを、だなんて、そんなの間違ってる。」
───私は、信じたくなかった。
ただ利己心のみが原動力となって、呪いに身を滅ぼしてきた人間を嫌という程見たことがある。
助けてきた人間の中。本当にこの人は助けられるほどの善人なのかと疑ってしまうことだってある。
それでも私は、私たちを信じたかった。
目には目を、歯には歯を。そうやって堕落してきた世界を知っている。それでも私たちが今ここにいるのは、その度に間違いを改めてきたから。
呪いのない世界だって、きっと、
「今に始まった話ではない。」
グルグルと回る思考を止めたのは、やはり目の前の彼で。
「現に千年以上の時を経て俺が存在している事実こそが証拠だろう。」
やっぱり、呪いはどこまで行っても呪いのままだ。
苦しそうな私の事なんて露知らず、配慮だの気遣いだのといったものをせずに、彼はただ事実ばかりを口にする。
「人は呪い、呪われ合う生き物だ。」
「そうやって生きてきた。そうやって死んできた。」
まるで世界の終末を見届けるような、冷酷な瞳だった。
その瞳に映る自分が何とも情けなくて、思わず目を逸らしてしまう。
それでも意識の方向がこの男に、この男の声に向いてしまうのは、きっと彼の言葉全てが、抗えない事実だったから。
「世界を救った英雄も、人を殺めた大罪人も。
ただ罪も徳も重ねずに日々を生きた人間も、誰一人として例外などない。」
声が落ちた、気がした。
その声に重力が働いているように、私は不思議と、視線が上がって。
「───お前だって、最後は世界に呪われた。」
目が、合って。
「…………え?」
どういう意味かと尋ねるより先、たった一音が飛び出てそれきり。
私の脳は、使い物にならなくなった。
そうして何を聞くことも出来ぬまま、意識が霞む。体が傾く。
闇に沈む寸前。
宿儺の顔が、声が、瞳が。
情を持った人間のように、哀しみに染っていたのは、気の所為なのだろうか。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時