. ページ42
.
全てを吐き出したAは、細い肩を上下に大きく揺らして呼吸をしていた。
止まりきらなかった彼女の涙が俺の頬に落ちる。生暖かい、彼女の生きている証が確かにそこにあった。
目を閉じて、考える。
俺が見たかったのは本当にこんな彼女だったろうかと。
不純な気持ちがなかったとは言わない。確かに最初は、君を手に入れたいという利己心が俺を動かしていたのだから。
でも、信じて欲しい。
今だからこそちゃんと言える。これは確かに愛だった。
沢山怖がらせてきた。
沢山辛い思いをさせてきた。
俺が、全て、
「…………悪かった。」
再びゆっくりと開いた目の先。
Aは俺の返事に大方予想外だとでも言いたげに目を丸めていた。
ふふ、久々に見たな、君の無表情以外の顔を。
愛おしくって、確かめるように右手を頬に添わせた。
相変わらず体だけは正直にビクリと揺れたけれど、Aの瞳には確かにあの頃の彼女がいて。次の俺の言葉を期待していた。
馬鹿みたいだと自分でも思うが、少し。ほんの少しだけ、同僚の頃の二人に戻れたような気がして、嬉しくて。
「知っている。」
全部、全部とうに分かっていたこと。
「君が苦しんでいる理由が俺にあるのは、知っている。」
小さな、嗚咽が聞こえたような気がした。
疑うまでもなく目の前にいるAのものなんだろうが、生憎そんなことも気にしていられない。
もし、と思う。
もし俺が、“普通” に君に想いを伝えていたなら。
少し困ったように君は笑って、けれどもやっぱり君の想い人は俺じゃないから、断られてしまうんだろうな。
でも、その先。
───幾つもの“もし”が頭を占領してしょうがない。
もし、何かの手違いで君が俺に振り向いてくれたら。
もし、二人笑い合うことが出来たなら。
もし、……
「…………もう、辞める。」
積み重ねたもしもは戻ってこない。
いくら俺がこの場をもって心を入れ替え、今の目の前にいる君に泣いて跪いて許しを乞うても、何もかもが遅すぎるから。
「──もう、君に甘えるのは辞める。」
ほろり、と。
最後の雫が彼女の瞳から溢れ落ちた。
Aは震えた手で、ゆっくりと頬を這う俺の手に触れた。冷たい。
大丈夫。
もう、迷わない。
──無防備な彼女につけ込んで、俺は力任せに、彼女の体を押し倒した。
.
313人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時