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乾いた笑いが口の端から隙間風のように溢れ出る。
酒のせいでもあるのだろうか。宙に浮いたような気分がずっと続いている。至極愉快で堪らないと腹の底から笑いが込上げる。
───不死川、お前の負けだ。
あぁ、面白い。あの絶望に染った顔。そうだよ、俺はお前のその顔が見たかった。泥を飲んだような、未来が途方もない暗闇に覆われたようなあの揺れた瞳が何よりもお前に相応しい。
Aがここにいると、信じて疑わなかったのだろう?
自分なら彼女を助けられると、本気で、そう。
「……はっ、」
馬鹿だ。俺以外の人間は馬鹿だ。
お前なんか一生彼女のことを分からないんだ。彼女の何物にもなれやしない。彼女の隣を歩くのはお前じゃない。彼女の光を受けるのは、全部、全部。
「…………A、」
風呂場のドアを開け、浴槽の蓋を取り外しながら声をかけた。
中には勿論あの男が来る前にここに隠したAがいて。
辛かったろう。痛かったろう。可哀想に。
どこを見ているのか分からないAの体をそっと抱き上げて、額にキスを落とした。
…………壊れた人形のようなこの彼女を目の当たりにして絶望に打ちひしがれる不死川も見てみたかったが、まあしょうがないか。
何よりAの目に俺以外の男が映る必要なんてないのだから、これでいいのだ。
「辛かったろう?大丈夫か?どこか痛むか?」
「…………。」
「偉いな、偉い。ちゃんとお利口に待てて偉かった。
何かご褒美をやろう。何がいい?何をして欲しい?」
前までは俺を見るなり歯向かってきた彼女も、今となっては力ない瞳で空虚を見つめている。
しかしたった今俺が口にした“ご褒美”という言葉に少なからずの反応を示した。
僅かに揺れたまつ毛。
瞳。
そして今一度ゆっくりと落とされる瞬き。
「…………何、でも……?」
「……!」
久しぶりに彼女の方から声を発してくれたのが嬉しくて、俺は思わず声の調子が上がる。
「あぁ、そうだ。なんでもだ。」
ただ、分かっているだろう。
外に出たいだの、あの男に会わせろだの。そんなことを言い出した暁には、きっと俺は、君を──
「…………して、」
「……ん?」
空気に溶けた言葉。一縷だって無駄にしたくない俺は、拾い上げるように彼女の口元に耳を寄せて。
「───殺、……して」
力ない彼女は、明瞭にそう言葉を紡いだのだ。
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時