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暗い廊下。暖房の届かぬここはひんやりと冷たい。


酒に強い方で良かったと今日ほど思った日はない。トイレに行くと席を立って数十秒。時間はない。急がなければ。


いくら疑いをかけている相手とはいえ、やはり他人の家を勝手に歩き回るのは気が引ける。最初に彼に教えられたトイレらしきドアを通り過ぎて、手洗い場、彼の部屋と視線をすべらす。


滑らした、先。




「……っ、」




ここだ。


と、俺の中の全本能が強く叫んだ。

見せつけるように開けられた他の部屋とは違い、唯一固く閉ざされている角の部屋。
ドアの隙間から盛れるのは黒一色。喉元がゴクリと揺れる。元より回っていない酒が、一気に俺の体から引いていくのを感じて。



…………もし、 橘がいたら。


俺は、どうすればいい?

……違う、どうするも何も無い。そんなの事情を聞くよりも先に彼女の手を引いて逃げる。あの男の目が付かぬ場所へと、二人で。



冷たい汗が、背を伝う。


大丈夫、だって、きっと、そんな。





「───…………えっ、」





扉を、開けて。





「……嘘っ、嘘だ……なんでっ」




──そこに広がっていたのは、家具一つ置かれていない殺風景な空き部屋だった。



なんで、どうして、なんで?


開ける前までは居るわけが無いと思っていたのに、いざ居ないと事実を知ってしまうと一気にそちらの方が異常に思える。


だって、彼奴が。あの男が何もしていないはずがない。


あの日の不可解な言動も。

橘が消えてからの妙な落ち着きぶりも。

そして今日、俺を家に招いた彼奴の余裕も、





「──どうしたんだ、不死川。」


「ッ、……!」





息が。体が。指の先、が。

蛇に睨まれたようにピシリと固まり、頭はろくに働かなくて。





「こんな何も無い部屋を見て楽しいか?」




“何も無い部屋”


気持ち強く発されたその言葉に、違和感が音を立てて膨れ上がる。





「……っ、……。」




口を僅かに開き、それでも何も言えやしない俺を見て煉獄は困ったように笑った。

笑って、一歩近づいて。

俺の肩に手を着くと同時に、顔を覗き込んで。




「──ここに君が探してるものは無いさ。」


「……ッ、!」


「さ、この部屋は冷える。早く続きを飲もう。」





そう言って俺を連れて部屋を出る煉獄。

去り際、俺はもう一度だけその空き部屋を振り返る。




橘。 橘、お前は今、何処にいるの。



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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , ヤンデレ   
作品ジャンル:恋愛
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時

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