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「───いらっしゃい、不死川。」



都内、某日。

まだ指の先が冷える夜。俺が今いるのは彼──煉獄の家の前だった。

深く息を吸って、吐かずに飲み込んだ。




「お邪魔します。」









そもそもどうして俺が彼の家に来たのかって、その理由は明白だ。


橘を助ける。それだけ。


何一つとして証拠なんてないのだ。例えあの日の煉獄が彼女のUSBを盗んでいたとしても、それが彼女の消えた原因に直結するとは常人の思考じゃあ思いつき難い。

……そう、普通なら、有り得ない。





「君と飲むのは久しぶりだな。」


「おー……、そうだな」


「最近何だか付き合いが悪いから少し寂しかったぞ。」





そう言って眉を下げながら笑う煉獄の顔は、高校の頃から何一つ変わっちゃいなかった。


何、一つだって。



──数日前、久々にどちらかの家で飲まないかと誘いでた時、先に自分の家を提案したのは煉獄の方であった。


俺は咄嗟に聞き返してしまいそうになった。


だってあまりにもその様子に抵抗や心配の色が見えなかったのだから、とうとう俺は俺のあの推測が完全に間違っているのではないかと疑ってしまって。





「いつもので良かったか?」


「ああ。」




キッチンの方から聞こえる煉獄の声に、半ば適当に返事をした。

その間巡る思考は 橘のこと。今この瞬間この家のどこかにいるかもしれない彼女のこと。


四方八方見渡してみてもそこには彼以外の人物の生活の影さえ見当たらない。
一人分のマグカップ。一人分の箸。一人分の歯ブラシ。


独身男性の典型みたいな彼の家は、やはり彼自身のセンスも相まって小綺麗すぎて逆に落ち着かない。
何度も胡座を崩したり、またかいたりと俺の動きは忙しない。



すん、と鼻をすすった。


何ら変哲のない、市販の芳香剤の香り。それに交じる自然な煉獄の香り。それ、と──。



…………駄目だな、俺。

橘が居なくなってから漸く気づいた。

あの子のことが好きだったんだ、俺。


今だってそう。居るかどうかも分からないのに、息を吸うにしてもどこかで君の匂いが混ざってしまう。




「さて、始めようか。」


「おー……、って、何かツマミ多くねぇか?」


「久々に親友と飲めるのが楽しみでつい……な」




そう言って恥ずかしそうに頬をかく煉獄は、俺が知ってる煉獄だ。


なあ。

俺たち、親友だよな。


心の中で呟く。「乾杯」と二人分の声が部屋に響いた。


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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , ヤンデレ   
作品ジャンル:恋愛
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時

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