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ふわ、と早朝にして本日何度目かの欠伸を漏らした。
学校までの道のり。どうせ誰も見ていないだろうと油断したのが悪かった。声が出てしまったとほぼ同時、私の頭にコツンと当たる骨ばった手に、数拍遅れて振り返る。
「おはよォ、寝坊助さん。」
「お、……はようございます、不死川先生。」
完璧なタイミングと意地の悪い口元。
その怖い顔に似合わぬ子供らしい無邪気な笑顔を見せた彼──不死川先生は、職場の先輩である。
「今日は寝坊しなかったのな。」
「いつもしてるみたいな言い方しないでください!」
「ふはっ、どーだか。お前何かと鈍臭いからなぁ。」
「そんっ、……なことないです!
……たまに、無くし物、するくらい……で」
あからさまに萎んでいく声に、不死川先生は堪えられないと言った風に笑いだした。朝から楽しそうな人だな、本当に。生徒の間では怖がられているみたいだけれど、私からしたら生徒よりも少年のように思える。
今年度から教師を初めて早一年を迎えようとしている。
不死川先生は春頃からずっとお世話になっており、相談事は仕事に留まらず私情を持ち込む程にまでは仲がいい。
ご兄弟が多いらしいから、その面倒みの良さも納得が行く。
「ほんと気ぃつけろよ」
「最近は大丈夫です!
強いていえば家の鍵を無くしたと思ったらデスクに置きっぱだったくらいで……、」
「強いて言ってないんだよなぁ」
幼い頃から何かと要領が悪く、それこそ鈍臭いと何度言われたか分からない私でも流石に驚いた。
鍵を無くすこともまず驚きだし、その翌朝に何食わぬ顔でデスクの上に裸で置いてある鍵を見て更に驚いた。まあこんな私でも大人になれてるのだから社会ってすごい。
不死川先生も呆れ果てたような苦い顔。
自然と言葉を終えた私達は、時折すれ違う生徒に挨拶をしつつ歩みを進めた。
もう学校までは目と鼻の先だったけれど、人が居なくなったその一瞬を彼は待っていたかのように口を開いて。
「そう言えば、アレ、どうなったの。」
ちらちらと周りを気にしながら尋ねる彼の言わんとしていることを私は知っている。
曖昧に笑って見せた私に不死川先生は態とらしく溜息を着くと、その指示語を訂正した。
「──ストーカー、大丈夫なのかよ。」
日常ではそうそう聞くことの無いその単語。
私はやっぱり、苦笑いしか出来ずに。
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時