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「…………は、」
思わず口をついて出たたった一音。
彼女は慌てて先の言葉を弁明する。
「違うんですっ!そのっ、……えっと」
彼女が口にした理由は、俺が思っていたよりもずっと単純なものだった。
この怖気付いた態度も、一向に合わない視線も、消え入りそうな声も、ただ“怖い”という理由だけで全て辻褄が合う。
「……失礼、だとは思ってるんですけど。」
「……。」
「煉獄先生が素敵な人なのは知ってます。皆さんそう仰ってますし……、でもっ」
何よりも、意味がわからなかったのだ。
怖がられるようなことは何一つしていないはずなのに。
「──……先生、時々凄く、冷たい目をしてる時があるんです。」
目を開いた。息を吸った。
そんな俺の様子を見て、再び目の前の彼女が言葉を重ねる。
「目付きが悪い……とかじゃなくって……、えっと……。」
「笑顔も……何だか、無理してる……気がして」
──俺は、震えた。
たった今この瞬間を以て、その他大勢の人間と変わりなかった目の前の彼女が、この世にたった一人、俺の全生涯を照らし支えてくれる光へと変わったのだ。
訂正に訂正を重ねて慌てる目の前の彼女の声なんてもう耳に入らない。
口の端がつりがるのが分かって、右手で抑えた。
「…………そうか。」
長い長い空白を経て言葉になったのはたった3文字。Aは戸惑った様子で俺を見つめて。
俺は彼女を鈍臭い人間だと思っていた。だからきっと他の奴らと変わりなく、俺の事を出来た人間だなどと馬鹿みたいに信じるのだろうとそう。
でも、違った。
誰よりも早く本当の俺を見破ったのは彼女だった。
彼女ならきっと分かってくれる。
俺のこの心の黒い部分も纏めて全てを受け入れてくれる。
彼女が、彼女だけが、俺を
「…………煉獄、先生?」
口を抑えて黙り込んでしまった俺を見て、Aが不安げに俺の名を呼んだ。
この時には、もう遅かった。
この人を手に入れたいとそう思った。俺の全てを受け入れてくれる彼女を、自分だけのものにしたいと、強く思った。
「……はっ、いや……何も無い。」
君は俺の光だ。
「怖がらせて悪かった。善処しよう。」
今まで、君を嫌っていた自分が恥ずかしい。
面白みのない人生に、君という光が差し込んだ、最初の日だった。
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時