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俺が彼女と初めて会った時のことはよく覚えていない。
新しい教師が入ってくると聞いた。新卒の英語教師だと聞いた。正直、どうでも良かった。
朝。空いた隣席を見て面倒だと感じた。人付き合いは得意な方だが、無駄に気を使うのは好きじゃない。だから当時の俺は、俺を取り巻く人間関係が完成されたこの職場に異物が侵入してくることが嫌で、嫌で。
「社会科担当の煉獄だ!」
今と変わらぬ見た目。
今よりも幾らかオドオドとした様子。
小さな声と、忙しない視線。
「……初め、まして。 橘Aです。」
差し出した俺の右手を、彼女は掴まなかった。
そして何より、俺の顔を見て咄嗟に目を逸らしたのだ。
俺は困惑した。
俺と接する人間は大方二つに分けられる。
俺のことを好意的に思う人間と、はなから俺に興味がない人間。
だから、初めてだったのだ。
──俺を避けたのは、彼女が初めてだった。
*
今思えば、当初の俺は彼女のことが嫌いだった。
別に彼女一人が俺を嫌う分には構わないが、そうすることで周りの人間にも悪影響が及ぶのが何より面倒だったから。
男が苦手なのかと思ってみればそんなことは無い。
彼女の教育係に任命された不死川とはそれなりに親密そうだったから。
そもそも人付き合いが嫌いなのかと思っても違った。
彼女が持ち前の社交性を活かして自身の居場所を職場に見出すのはずっと早かったから。
となれば問題は俺にある。
一体彼女は、 橘Aは俺の何が癇に障ったのだろうか。
話しかけても、笑顔を見せてもダメ。
何か手伝おうかと声をかけれど、そのどれもに震えた大丈夫ですという言葉だけが返ってくる。
俺は腹が立っていたんだと思う。
意味もなく俺を避ける彼女が非自明で、憎たらしくて。
ある日の放課後。適当な理由をつけて彼女を社会科準備室に呼び込んだ。
相も変わらずビクビクと怯える彼女。
もう前置きも面倒だったから、単刀直入に俺は尋ねた。
「どうしてそんなに俺を避ける?」
分かり易く目の色を変えた俺を見て、また彼女がびくりと揺れた。
爪の先をいじり、視線を逸らし。言葉にならない声を数度漏らしたと思えばまた口を噤んで。
「俺のことが嫌いか?」
怒気を孕んだ声色。
彼女は小さく首を横に振り、それはそれは小さな声で、躊躇いがちに言葉を紡いだ。
「──……怖い、んです。」
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時