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ザワつく周囲。不死川先生も驚きに顔を染めて。
「……何故、煉獄が?」
悲鳴嶼先生の言う通りだった。
データがあるのなら。この現状がどうにかなるのならそれに越したことはないのだけれど、そもそもどうして、私の仕事を、彼が。
「前に最終確認を頼まれた際にバックアップを取っていたんだ。 橘先生はたまに抜けているから、心配でな。」
「まさか役に立つとは」と笑いながら、彼は自身のUSBを私のパソコンに差し込んだ。
画面に映ったのはずっと探していたデータ。昨日までは確かにあった、データ。
「……良かっ、た……」
それを見た途端、体中の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
後ろからパソコンを覗き込んだ悲鳴嶼先生も一度だけ頷いて、小さく微笑む。
良かった。本当に、良かった。
緊張の抜けた耳が拾うのは周囲の声。
『やっぱり煉獄先生は凄い』
彼を賞賛する声ばかりが聞こえてくる中、怪訝そうに眉を顰めた女性職員の声もちらほらと。
『それに比べて、 橘先生は駄目ね、』
『そもそもこの仕事だって、色んな人に助けて貰ってたじゃないの。』
ぞわりと。
全身を巡る血管が脈打つような感覚に襲われる。
助かったと思ったのも束の間。
──……私の失敗が無に帰る訳ではなかった。
一連の騒ぎが収まり、各々が仕事に戻る。
未だ動けそうにない私の頭を巡るのは、後悔と罪悪感ばかり。
なんて、惨めなんだろう。
「……っ、」
今になって漸く堰を切って涙が溢れる。
じんわりと熱くなる目頭。心臓が煩くて、頭の中は酷く冷たい。
皆がいつも通りに戻った中、置いていかれたのは私と不死川先生だけだ。
誰にも見せぬように静かに涙を流す私を見て、不死川先生は忙しなく視線を動かしては息を吐く。
声をかけようとしてくれてるのだろうか。何で貴方がそんなに悲しそうな顔をするのだろう。
悪いのは、最初から全部、私なのに、
「─── 橘先生」
ぐい、と。
腕を引かれて立ち上がった。
私の名を呼ぶ声。未だ視界に移る不死川先生のものでは無い。
ゆっくりと、後ろを振り返る。
「…………煉、獄っ、先生」
「少し付き合ってくれないだろうか?」
真っ直ぐな瞳。意図の分からぬその誘い。
何処にも、何にも教えてくれなかった。
私は黙って、手を引かれるまま従うことしか出来ずに。
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時