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「───データが……消えた?」
静かで、落ち着いて。それでいて息を飲むようなその声に、私はびくりと肩を揺らした。
あの後、騒ぎ立てていた私たちを見た悲鳴嶼先生が何事かと尋ねてきて。何も言えない私を見兼ねた不死川先生が口を開きかけたけれど、これ以上彼に任せ切りなのも情けないから私は何とか声を振り絞って経緯を説明した。
こちらに向く数多の視線。私はもう、今すぐにでも逃げ出したくなって、唇を噛む。
「……すみません。」
「………………。
橘先生……、確かに、謝ることは大切だ。
だが、今の君がすべきはそれではない。」
「…………はいっ、」
「私は君を信頼してこの仕事を任せた。」
分かりきっている言葉が振ってくる。
知っている、そんなこと。だから私だって、こんなにも苦しいのに、
「…………君に任せた私の判断が悪かった。」
「…………ッ、!」
何よりも聞きたくなかった、一言。
抗議の声を上げるべく一歩前に出たが、私を守ってくれる言葉なんて何一つ持ち合わせちゃいない。
何もかも、私が悪いのだから。
「っ、待ってくれよ悲鳴嶼さん!!」
立ち尽くす私の代わり、声を荒らげたのは不死川先生だった。
「…… 橘は、っ、……」
言葉に詰まる不死川先生。当たり前だ。私を正当化してくれる言葉なんて何処にもありゃしない。
今ある事実は、私が失敗したということだけ。
結局何も言えずにいた不死川先生を見て、悲鳴嶼先生が大きくため息をついた。彼だって、叱りたくて叱っている訳では無いのだろう。
「不死川。」
「……はい、」
「後輩を可愛がりたい気持ちは分かるが、上に立つ者は時として厳しさを持つことも大切だ。」
「…………。」
「今彼女を庇ったところで、何も解決にはならない。……今は、彼女の失敗をどうするかが、」
耳を塞ぎたくなるような言葉。
人に怒られるのなんて何年ぶりだ。こんなにも自分が惨めに思うのだって、一体。
皆、私たちを遠巻きに眺めるだけ。可哀想にという哀れみの目が向けられるけれど、生憎それさえ何の助けにもなり得なくて。
心底、自分が情けない。
あと一瞬でもこの空白が続いたなら、涙さえ落ちてしまいそうなその時。
「───そのデータなら、俺が持っている。」
どうにもならぬ現状に手を差し伸べてくれたのは、煉獄先生だった。
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時