you ページ15
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煉獄先生と仲が深まってからというもの、彼は自身も忙しい筈なのに度々私を家まで送ってくれた。
話せば話す程に、彼の趣味や好きな物が私と多く合致していることに気づいた。何を言っても話を繋げてくれる彼を見て、余程の知識人なのだろうなと尊敬することもしばしば。
ストーカーからの嫌がらせもパタリとやんで。
私は少し、浮かれていたんだと思う。
*
「…………えっ?」
ある朝の職員室。
思わず落ちた声は、多分誰の耳にも聞こえていないと思う。
周囲の確認もそこそこに、一度声を出してからの私は酷かった。目の前のパソコンを何度も見直して、荒い手つきでマウスを動かす。
無い。無いのだ。
──今日提出するだった筈のデータが、消えた。
周りを見る。誰も私には気づいていない。
……大丈夫、落ち着いて。フォルダなら消えても復元ができる。
大事な仕事だった。
この職場についてもうすぐ一年。何かとミスの多い私だったけれど、そんな私を評価してくれた悲鳴嶼先生が与えてくれた大事な仕事だった。
それが、消えたとなれば、私は、
「…………うそ、」
復元の失敗を確認。
手が震える。周りの音なんて何一つ聞こえない。
……あぁ、そうだ。こんな時の為にUSBに保存していた。あれはポーチに入れたきり一度も取り出してない。無くすなんて、ある、わけが。
──そんな私を嘲笑うように、空っぽのポーチがそこにはあった。
「………… 橘?」
思考を止めたのは、不死川先生の声。
明らかに只事ではない顔の私を見て、彼が心配そうに私を覗き込んだ。
「…………っ、」
彼の顔を見て悟る事態の深刻さ。
さーっと血の気が引いていくのがわかって、私の口はろくに動いてくれやしない。
悲鳴嶼先生だけでない。多くの人の期待を背負って任された仕事だった。
失敗なんて許されない。今まで助けてくれた方に成長した自分を示すための仕事だった。
こんなはずじゃ、なかった。
「あ、の…………っ、私っ、」
勢い余って立ち上がった私はそのまま彼の方へとよろけてしまった。
駄目、駄目だ。
今は泣く時じゃないし、どうしようなんて慌てている場合でもない。
一刻も早く自分の非を認めて謝罪して、この場をどうにかしなければいけないのに。
「…………私っ、──」
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時