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彼女の声だけが聞こえる。

彼奴の声が聞こえないことだけが唯一の救いだったけれど、話している内容が分からないのは厄介だ。
Aが俺の知らない場所で知らない話で盛り上がるところだなんて何よりも知りたくない。



しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、彼女がスマホをスタンドに立てかける様子が見えた。




『どうしたんですか?いつもはビデオ通話じゃないのに。』


『あぁ……いや、一人で帰ったから心配で。

顔みたら安心するかなって。』




スピーカーにしたせいで不死川の声まで拾ってしまう。

そんなことよりも、彼女は今“いつも”と言った。いつも?いつもこうやって帰る度に彼奴から電話を受けていたのか?そしてそれをあんな笑顔で受け取って?



憎い。


彼女の鍵を取って、複製して、元に戻して。時間を見て家に侵入した俺がこんなにも惨めな思いをしているというのに、何故何もしていないお前が彼女の声を聞いている?彼女の姿を見ている?彼女の生活音の一つまで聞くことが出来る?


……嫌だ、妬ましい、辛い。


不死川のことは決して嫌いじゃなかった。

高校来からの友人で、年上と言えどそれなりに仲の良い男であった。


それでも。いや、だからこそ。

今だけは彼奴の存在が邪魔で仕方がない。赤の他人ならどうとでも出来たものを、数年間を共にした友人となれば少なからずの情が邪魔をする。





『いえ、今日は煉獄先生に送ってもらいました!』


『……煉獄が?』


『はい!家も近いようで、これからも都合が合えばと申し出てくださって。』





不自然に止まった会話。

……不死川の顔が見えないのが悔しい。





『……あの、さ』


『はい?』


『余計なお世話かもしれねぇけど、さ』





二人の会話。俺までも聞き入ってしまう。




『──……煉獄には、あまり関わらない方が良いと思う。』


「は?」



聞こえる訳もないのに思わず出てしまった声。

お前は、今、何を。




『なん、でですか?』




AもAだ。

どうしてそんな奴の話を真剣に聞く必要がある。今すぐに電話を切ってしまえばいいものを。




『……いや、別に……なんでというか』



不死川はどうやら俺を悪役に仕立てあげたいらしい。
ぬかった。まさかこんなに身近に敵がいたとは。



彼への怒りが喉元を越えかけたその瞬間。





『……私は、良い人だと思いますよ。』




俺の感情の波が、はたと止んだ。


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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , ヤンデレ   
作品ジャンル:恋愛
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える(プロフ) - はじめまして、今まで読んだ作品の中で一番私にハマった作品です…本当に素敵な作品です。もう本当感謝しかないですありがとうございます!!! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 34190a2143 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - すごい!一気読みしましたよ!怖かったけど…なんか、なんか、すごかった!! (2021年2月1日 19時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!!その褒め方は初めてされました!!笑 進撃知らないですが友人から伏線が凄いとだけ聞くので多分めちゃめちゃ褒められてますよね、嬉しいです!!笑 こちらこそ、最後までお読み頂きありがとうございました!! (2021年2月1日 0時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 伏線回収が進撃の巨人並みにすごすぎます。。めちゃくちゃ面白かったです。。。最高です。。 (2021年2月1日 0時) (レス) id: bf756d4cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!言葉選びには気をつけているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです!!春の消失点の方もお読みいただきありがとうございます!とっても素敵なコメント嬉しいです!! (2021年1月30日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月17日 20時

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