【鬼滅の刃】月 を 沈 め る 【煉獄杏寿郎】

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成績優秀、品行方正。

世にごまんと転がるような褒め言葉の殆どは言われた覚えのあるものばかりだった。そして言われている内に俺は気づく。所謂自分は、世間から見れば“強者”に分類されるらしく。

しかし勿論そんなことを自分から言うことは決してしない。自分が恵まれた人間であることを理解して、その上で俺は飽くまでも優等生を装った。



学生時代、言われた通りに勉強して点を取れば、大人達は喜んだ。

昔も今もニコニコと愛想の良い笑顔を振りまいて、多少の謙遜を交えればどんな人間も俺に気を許した。



そこに自分の意思なんて一つもなかった。



教職に就いたのだってそう。安定した職業に就きなさいと子供の頃から再三言われていたからそれを行動に移した迄。教えることが楽しいと思ったことも、天職だと感じたことも無い。教師に限らずとも、俺は何だって出来るのだから。



優等生。模範生。長男。教師。


様々な肩書きを押し付けられた俺を、人は“恵まれた人間”と称する。たかだか漢字四文字、月並みな言葉で俺を形容しようとする。



別にこれと言った不満なんて無いのだ。



人望はもう腐るほどにあるし、金だって不自由はない。責任だって重苦しく感じたこともあるけれど、慣れてしまった今は大した問題じゃない。



ただ、一つだけ。



子供の頃から何事においても他の追随を許さなかった俺が。

欲しいものは何でも自分の力で手に入れてきた俺が。

一番になることに誰よりも執着していた俺が。




未だ成し得ていないことがたった一つ。






｢────A、｣





深夜。パソコンの光のみが照らす部屋の中。

画面に映る彼女の姿と、イヤホンから流れる彼女の部屋の空調の音。




A。 橘A。

同じく教師を務めている、俺より年下の女性。



ノイズとも疑うような彼女の寝息を確認。さながら愛し合う恋人同士のように画面越しの彼女にお休みを告げて、俺も眠りにつく。


───たった一つ、俺が成し得ていないこと。


誰よりも愛おしい彼女を、俺だけのものにしてしまうことだ。
美しく清らかなあの瞳に映るのが、後にも先にも俺だけになるように。


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