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「────……そりゃあまた、面倒なことになったなァ」
目の前で引き攣った表情を浮かべる不死川。それなりに気を使えて相談事の上手いこの男がこうなってしまうのだから、事態の深刻さは明白だろう。
結局、公民担当である悲鳴嶼先生は課題考査にあたっておらず、私が事務室に訪れた時には既にこの男しか残っていなかった。
年甲斐もなく廊下を駆け抜けたあの労力を返して欲しいものだ。何なら今も息が上がってるし。
先程の冨岡との話を包み隠さず不死川に話せば、こうなってしまった。
わかる。わかるよ、誰かに話したところでこんな非現実的な事態がそう易々と二転三転する訳もあるまい。
それでも私は、皆の頼れるお兄様不死川実弥君なら、何かしてくれると淡い期待を抱いていたのだけれど……。
「詰んだな」
ぱりーん、と心の割れる音。いや本当にしたよ。比喩とかじゃなくてマジでぱりーんってなった、ぱりーんって。
「………………終わった」
「んな大袈裟な」
「…………もう駄目だ…………あと一ヶ月で私の独身生活の終了と共に人生が終わる……」
テスト用紙の最後の一部を印刷し終えたと同時に、パタリと机の上に突っ伏した。
絶望の二文字しか見いだせない頭はこの先を教えてくれやしない。不死川もどうしたものかと苦笑を漏らし、うーんと形なりには考えてくれている。
「……あ、」
何かを思いついたようなその声に、私は咄嗟に顔を上げた。ただ勢いだけのそれに不死川は一瞬ビクリと驚いて、「いやあ……でも」と渋って見せた。
「30歳になっても互いに相手がいなかったらって約束だろ?」
「うん、そう。」
「じゃあ相手作ればいいじゃん」
「…………いや、だから……それが出来ないから今こうなって……」
「いるだろ、相手」
「……へ?」
乏しい人間関係を片っ端から辿ってみるが、生憎恋仲と呼べるような異性もそうなりそうな異性も一人も見当たらない。ちらっと頭の中の冨岡が顔をのぞかせる。お前は絶対に違う。
分からないと言う代わりに申し訳程度の笑顔を投げた。仰々しいため息。用紙、コピー機、壁の時計。あらゆるものを一巡した視線は、私の上でピタリと止まった。
「居るじゃん、ここに。」
そう言って彼は、自身を指さし。
「俺が彼氏ってことにすればいんじゃねぇの。」
なんて、あっけらかんと言ってのけたのだ。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時