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──────……とボヤいていたのは数時間前。話を今に戻そうか。
「…………えー、はい。……皆さんお静かにお願いします。」
いつもにも似ない困惑した様子を見せる胡蝶さんの声。
彼女の言葉なんてお構い無しにザワつく体育館。終始落ち着いた態度を見せていたのは全ての元凶である冨岡だけ。
…………こいつ、今なんつった?
ぺこりと軽く頭を下げて、動揺する生徒たちを置いて壇上から降りる冨岡。いやおい待て降壇するなふざけるな。
私に集まる無数の視線。その内の一つは、さっきまで隣で気だるそうに背を曲げていた宇髄先生。派手の神とやらも流石にこの状況だけは飲み込めなかったらしく。
「…………は?何、お前ら結婚すんの?」
この異様な空気を押し切るように進行される式の最中、私にしか聞こえぬ声で宇髄先生が問いかける。
「し ま せ ん」
…………一回、冷静になって考えよう。
まず大前提として、私は冨岡と付き合っている訳では無い。ましてや過去に付き合っていたことも、彼から思いを告げられたことさえないのだ。
一般的な場合においての『結婚』というのは、恋人関係における男女間で取り決められるもの。
つまり私たちはそれに該当しない。
それ故、結婚なんて有り得ない、わけなんだけど……。
「は?どういう意味?」
「知りませんよ私が聞きたいくらいです」
「付き合ってねぇの?」
「有り得ません」
「え、じゃあ何?冨岡はお前になんの確認も取らずにあんなこと言ったわけ?」
「……そう、なりますね」
「何それこっわ」と宇髄先生が身を震わす。いや震えたいのはこっちだよ馬鹿。
昨日まで何食わぬ顔で接していた同僚が始業式でいきなり求婚してきたんだぞ。
…………いや、違う。
あいつは確かに「結婚する」とそういった。つまりこれは求婚に非ず『結婚報告』。
果たして絶対に了承される確信でもあったのだろうか。それならそれで余計に怖いけれど。
……考えれば考える程頭がパンクしそうだ。
「─────……以上をもちまして、三学期始業式を終わります。一同、礼。」
私たちを包んでいた緊迫した空気が一度に緩む。
ぞろぞろと立ち上がる生徒たちと、遠慮の欠片も見受けられないバレバレな視線。
多分最高に曖昧な表情の私。
「…………絶対に許さん」
まずはあの仏頂面に事情聴取をしなければ。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時