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「…………え?」
初めて、だった。
本当に初めての事だった。俺の記憶力が乏しい訳では無い。初めてだったんだ。
初めて、俺はAに対して明確な敵意を示した。
「冨岡がっ、…………どんなっ、気持ちで」
数分前の俺が今の俺を見たら、馬鹿だと笑うだろうか。何をしてるんだって、今ならAを自分のものにできたかもしれないのにって、そう。
あれ、何で俺、こんなに悲しいんだ。
別に冨岡の恋路なんてどうだって良かったはずじゃないか。寧ろ自分と想い人との関係に水を差すからと邪険にさえ思っていたじゃないか。
なのに、なあ。
「しな、ず」
零れ落ちるような言葉の断片を踏み潰すように、俺は声を上げた。
Aの目が、口が、声が。やめてくれと全力で叫んでいたけれど、今から俺が言うことはきっと正当防衛だ。
「あいつは好きだよ、お前のことが」
冗談だなんて、お前が一番思ってないはずでしょう。
「…………どうしていっつも、
……そうやって逃げてばっかり……、」
自分でも声になってから漸く気づく。
───……俺は、俺自身を冨岡に重ねていたんだ。
当初、俺はAを鈍感な人だと称した。あんな明け透けの冨岡の好意にも気づかない彼女は鈍いのだと、てっきりそう思っていたのに。
彼女は多分、誰よりもずっと人の気持ちを汲み取ることに長けていた。今だってそう。冨岡の気持ちに気づいた上で、気付かないふりをしていたいだけ。
…………俺の気持ちだって、一向に取り合ってくれなかったじゃないか。
「可哀想だ」
冨岡も。烏滸がましいけど、俺だって。
「…………逃げたきゃ勝手にしろ。
ただ、面と向かって言われた言葉から逃げるのは最低だ。」
俺は、言えない。
この先もずっと伝えられない。
彼氏のフリだとか、良き友人だとか。そんな言葉で逃げてきた俺に、振り向いてもらうような権利はないから。
…………冨岡。俺さ、やっぱりお前のこと嫌いだよ。
お前は変に真っ直ぐで、頑固で、馬鹿正直で。そんなお前を俺は妬ましく思ってたけど、多分、お門違いなんだろうな。
お前はお前の勇気を持って、前に進んだんだろう。
ムカつく、気に食わない。腹が立つ。
…………何も出来ない自分に、心底腹が立つ。
「……。」
もう、俺は何でもいいよ。
失恋は俺一人だけで十分だ。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時