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「…いやあ、面白かった!」
映画前の緊張感は何処へやら、いつまで経っても単細胞な私の脳みそはおめでたい迄に映画一色に染まっていた。
「やっぱ映画で見ると迫力あるね……」
今回私たちが選んだのはかなりリアルなアクションもの。それこそ、カナエなんかは誘えないような。
「冨岡ってああいうの好きだったっけ?」
そういえ、ば。誘ってきたのは冨岡だったような。
好きなら早く言ってくれれば良かったのに。
「いや、見たこと無かった。」
「え?」
「Aが好きなものだから、見てみたいと思った。」
どきん、と。心臓の跳ねる音。
冨岡は時折、唐突にものを言う。
いつだって彼の会話のテンポは独特で、数年を共にした私でさえも時々その緩急に溺れてしまいそうになる。
ふーん、と適当に返事。正解だったのかな、これ。
そうしてやってきたのはいつもと変わらぬ沈黙だ。苦じゃない。冨岡との沈黙は苦じゃないのだけれど、やはり考えてしまうのは余計なことばかり。
「好きだから、じゃないのか」
「冨岡は、Aのことが好きなんだと思うぞ」
あぁ、ちょっと黙ってよ伊黒。
あんたのその無責任な言葉のせいで、私がどれだけ思い悩んでると────
「A」
何度目かわからぬ、私を呼ぶ声。
「帰るぞ」
淡々と紡がれる一音一音が、私は好きだった。
そう言って一歩先を歩く冨岡の背中をぼんやりと眺める。ふと視界に入り込んだ時計の針は、18時と少し。中学生じゃないんだから、もう少し寄り道をしてもいいだろうに。
ふ、と笑い声が一つ。
ねぇほら、やっぱり私が正しいよ、伊黒。
この男にそんな恋慕の心持ちがあるとは思えないし、あったとしてそれを隠していられるほど器用な男じゃない。
だって私は知っているから。
冨岡義勇という男を知っているから。
「どうした?」
急に笑いだした私を心配したのか、冨岡は道の途中で振り返りこちらを見つめた。
冬。日没は早い。
街頭が彼を照らしていた。
「伊黒のやつがさ、勘違いしてたよ、冨岡のこと。」
込み上げてくる笑い。冨岡も笑ってやってよ、あの馬鹿な男にそんな訳ないって。
「冨岡が私の事好きだって、勘違いしてた。」
冨岡は、笑ったりなんてしなかった。
ただ、いつになく驚いたような表情で、私を見つめていた。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時