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狐につままれたような伊黒との話し合いは、予想だにしなかった蜜璃ちゃんの帰宅により、特になんの盛り上がりも見せず終わりを告げた。
それからの数日、冨岡を見掛ける度に脳裏によぎる伊黒の言葉。
未だに何を思って伊黒があんなことを言ったのかは分からないけれど、とにかく伊黒は冨岡を随分と勘違いしているらしかった。
……だって、ねえ。あの冨岡が、私のことを好きだとか。
いや、何も私に限った話では無いのだ。だって冨岡はどこまで行っても冨岡で、恋愛のれの字も知らないような男だから。
生徒からの信頼や彼自身のスペックの高さから鑑みるに、それなりにモテてはいるんだろうけれど。
職場を共にしてきたこの数年、彼奴が色恋に目を晦ましている様子を私は見た事がない。
「A」
「へっ、」
泡が弾けるように、視界が一気に明瞭になる。
滑るように視線を上げれば、そこには私服姿の冨岡。
そうだった、確か今日は珍しく二人重なった休日で、以前話していた映画に来てて。
彼が両手に握るは映画館のコップ。持っててくれたのだ、私の分まで。
「行かないのか?」
「えっ……あ、うん!行こう!」
下手くそな返事しか出来なかったのは、先程まであんなことを考えていたから。
今に始まった話じゃない、ここ最近ずっとこんな感じだ。
席に着いて、スマホを開く。
画面に映し出された教師陣のグループLINE。割とここの職場は仲がいいほうだと思う。現にほら、宇髄先生が煉獄と一緒に馬鹿やってる写真が送られてるし。
「ねえ見て、冨岡。またあの二人──」
迷惑にならぬよう声を落として話しかけた。
途端、何が起こったか理解するよりも先に鼻をつく良い香り。
「どうした?」
縮まった、二人の距離だとか。
「あっ、……いや、えーっと」
多分冨岡は、私の小声を汲み取って距離を詰めただけなのだろう。この鈍物にそれらしい気持ちもないのだろう、が。
「変な写真だね、って……言おうと、した……だけ」
いつもなら気にならないその距離が、あの伊黒小芭内という男の言葉のせいで変に意識してしまって。
仰け反った私を不思議そうに見つめながら、冨岡が笑った。
「あぁ、そうだな。」
「……ッ」
ねぇ、やめてよ。
優しい声色も、瞳も、香りも。
年甲斐もなく意識しちゃうなんて、恥ずかしくて言えないでしょう。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時