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がさ、とビニール袋の音。
数拍遅れて目を向ければ、相変わらず何を考えているか分からない顔の冨岡が二つ目のパンの袋を開けて。
「そうか」
とだけ。
「…………え、それだけ?」
あんなに結婚だ何だと騒いでいた男があまりにも素直に私達の関係を受けいれたものだから、返って私の方が面食らってしまった。
下手すればいつも手にしている竹刀で一刀両断されかねないとも考えていたが、冨岡もやはりそこら辺は分別のある大人らしく。
そう、だよな。こいつももう三十歳だもんな。
「……ま、まあいいや。てことで、誤解される前に訂正しといてよね。」
「いや、それは出来ない」
「は??」
二つの声が重なって響く。一つは私で、もう一つは不死川。
……え、本当に理解ができない。
私は不死川と付き合っていることになってる。だから結婚は出来ません。そしてそれは冨岡も理解して、今ようやっと受け入れてくれて……、
「俺が三十を迎えるまで、あと一ヶ月ある。」
「……はあ」
「その一ヶ月の内に二人が別れているかもしれないだろう。」
…………ん?
「……えー……と、つまり?」
「不死川、俺はお前を良き友人だと思っている。が、今は訳が違う。」
「あの、冨岡さん?」
「二人の関係を崩そうなどは考えていない。だが俺も俺で時間が無い。」
「ごめん、あの、ちょっと話を、」
がっ、と勢いよく掴まれた両肩。
やけに整った冨岡の顔がずいと近づく。ちょっとだけ良い匂いすんのやめろ馬鹿。
「今日からの一ヶ月。Aが俺と結婚したいと思うよう、俺は尽力する。」
何故かキラキラと晴れ渡った表情の冨岡。いや、まあ、うん。実際は真顔なんだけど、なんて言うのかな、オーラが。
「不死川、油断するなよ。」
「はっ、……」
「お前には渡さん。」
きっ、と不死川を睨みつける冨岡と、それに対抗するようにメンチを切る不死川。
ちょっとあんたらいい大人でしょうよ辞めなさいよみっともない。不死川に関しては何に対抗してんの?プライド??
────……女子生徒の声を聞く限り、この二人は世間一般でいうイケメンの部類に入っているらしく。
そして今。そのイケメン二人に奪い合われるという少女漫画のような展開に胸が───。
(……ときめかねぇ……。)
橘A。三十歳。
神様。もう結婚とかどうでもいいから平和に暮らさせてください。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時