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「───……という訳で結婚は出来ません。」
時刻は正午を少し過ぎた今。
例によって屋上へ続く階段に腰をかけ、昼食を取っていた冨岡に不死川と二人で突撃。先手必勝って言うじゃない?短期決戦が勝利の鍵ってね。
不死川と付き合っていること。それ故に結婚は出来ないことの二点を簡潔に伝えた。
その間冨岡は昼食のパンを只管頬張っており、喋りながら食べられないと言う件の主張を体で示していた。
じっと私の顔を見つめる底知れぬ瞳。え、待って二口目食べ始めたんだけど、一回置けよそのアンパン。
「…………随分と急な話だな」
ごくんとその一口を飲み下し、食べかすを口の端につけながら一言。
あ、不死川がイライラしてる。長男だもんね、気になるよねそういうの。
「Aは数日前の飲み会でいつものように恋人がいないと騒いでいたじゃないか」
「ねぇやめてその普段から醜態晒してるみたいな言い方」
「まあ事実晒してるがなァ」
「不死川も黙って」
あんただけは私の味方でしょうが。
話を合わせろ、という目線を不死川に送れば、やれやれと息をついて彼が口を開く。
「職場内で付き合ってるなんて知られたら周りに気使わせるだろ」
「……。」
「まあ、黙ってて悪かったよ。」
ナイス不死川。流石実弥お兄様。非の打ち所のない完璧な理由。
「………一週間前、宇髄に誘われてキャバクラに行っ」
「ん〜、ちょっと黙ろうなァ冨岡」
前言撤回だふざけんな不死川何してんだよ馬鹿野郎。
…………しかし、まあ。そりゃあそうなるか。
勿論お互いに恋人の影なんて全くチラつかせていなかったわけだし、探せば探すほど矛盾点は見つかるだろう。
穴があきそうな視線を冨岡から受けて、耐えきれずに不死川を見た。彼もまた彼で苦笑い。作戦、失敗か……?
「…………はぁ、」
溜息。それはそれは大きな溜息。右隣にいる不死川から。
何事かと顔を覗けば、待っていたかのような視線が私を捉えた。
何かを決めたような強い瞳に、一瞬狼狽してしまい。
────……ちゅ、
「…………ッ」
ゼロになる距離。音を立てて触れ合った、カサついた唇。
息を飲んだのは、私だったか、冨岡だったか。
「これでも疑うか?」
張本人だけが、何食わぬ顔でそう言って。
「付き合ってんだよ、俺たち」
主語に含められた私すら、驚きで声が出なかった。
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華澄(プロフ) - うわぁぁ不死川さん切ない……!けど、とても面白い作品でした……! (2021年1月18日 8時) (レス) id: 10a0ab61a8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 莉子さん» 莉子さん!度々コメントありがとうございます!!私の方こそコメントの通知が来る度飛び跳ねて喜んでました!!笑 文章についてお褒め頂けるだなんて物書き冥利につきます…………!! とっても嬉しいです!ありがとうございます!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!! 正直見切り発車で不安なところが多々あったので、そう言って貰えて何よりです!!頑張ります!! (2021年1月17日 22時) (レス) id: debafb75d4 (このIDを非表示/違反報告)
莉子(プロフ) - ゆきさん完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした!!この作品、本当大好きで、義勇さんが好きって言うのもあったのですが、全く先が読めない展開で、あとは世界観や文章の流れや、行間など、台詞も含めてとても才能を感じてました。新作楽しみにしています! (2021年1月17日 22時) (レス) id: da7568f49d (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - ヤバいくらいに面白いしキュンキュンしちゃいました!!!もう大好きです((次の作品も頑張って下さい!!! (2021年1月17日 21時) (レス) id: 7954c2eb45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年1月8日 11時