40話 ページ40
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家に着いてもなかなかドアを開けられない。
取っ手に手をかけては離して…
その繰り返し
『俺が守るから』
さっきまでの会話で言われた言葉を思い出して少し勇気を貰う。
数回深呼吸をしてから扉を開ければ、どことなくいい匂いが鼻をかすめる、
旦那「おかえり…ご飯食べるだろ?久しぶりに作ったんだ…」
結婚してから1度も立ったことのないキッチンに立っては慣れない手つきで包丁を持っている。
「え、」
その光景にびっくりしすぎて言葉を失ってしまう。
旦那「座ってゆっくりしてなさい」
『はぁ、こっちは仕事で疲れてるんだ。』
『ご飯の用意もまだ出来てないのか』
『ほんと、楽な仕事して家でも何もしないつもりか』
今まで言われてきた言葉が頭の中で思い出される。
いつの頃も1度たりとも手伝わなかったあの人が。
旦那「さ、食べようか」
そう言って出てきたのはカレーだった。
不格好に切られた野菜。
所々で溶けきれていないルーの塊。
1口食べてみても、まだ火の通りの甘いじゃがいもや人参。
ルーの溶けていないザラザラした感じが下に広がる。
旦那「どう、だろうか?」
味に不安があるのかこっちを見つめ、感想を待っている。
『あの、どうでしょうか?味は…』
旦那『そうだな…___』
「そうですね…まずいです。けど、暖かい味ですね」
旦那『まずい…けどとても暖かい味だ…これから成長を見られると思うと楽しみだな』
なんて、、もう随分前の記憶を思い出す
旦那もおなじ事を思っていたのか少し笑っていて、そうだな。と返事をされた。
少し…ほんの少しだけ懐かしさを感じた。
旦那「実は、」
「はい?」
旦那「職場の部下に急に変な言いがかりを付けられて、自宅勤務になった。処分が決まり次第連絡が来る」
「…それは、この前お店であった方ですか?」
普段見せない笑顔で笑いかけながら話している光景を思い出しながら問いかければ、「あぁ、」と小さな返事が返ってくる
旦那「でも俺はAがいてくれるならどんな環境からでもまた1から頑張ろうって思えると思うんだ」
「本当にその女性とは何も無かったんですか?」
旦那「あぁ、ただの部下としか思ってないよ。俺にはAが1番だ。当たり前だろう」
本当に、本当にそうなのか。
あんなに優しい顔をして、あんなにも距離が近くて。
「そう、ですか。」
信じられないまま、その後はこの人が出してくる話題に答えることしか出来なかった。
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作者名:優希 | 作成日時:2023年1月3日 14時