第５５話 ページ5
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夜も更けて、Aは城から抜け出した。
飛んだ先の丘は見晴らしがよく、昼間はよく人が訪れるが夜は冷えて誰も来ない。
そこには石碑が何個も建てられていて、Aはその一つ一つに花を手向けた。
『そこにいるのでしょう、ソー』
すると植木の木陰からソーが出て来た。
「すごいな。何でわかった？」
『勘よ。ここにいると、第六感みたいなものが鋭くなるの』
「…すまない。黙って来てしまった」
落ち込むソーに、Aはまた優しく笑いかけるかと思いきや、少し悲しそうにした。
『親しい間柄でも、超えちゃいけない線があると思うの。』
「本当に悪かった…。そんな、嫌なこととは思わず俺は」
『もういいわ。大丈夫。
遅かれ早かれ、貴方がここに来ることは変わらないでしょうから』
Aは最後の花を置くと、その墓石をじっと見つめた。
『ここはヴァルキリー 達の墓場なの。
強く、美しく散っていった、勇敢な戦士たち』
「やはりヴァルキリーはヘヴンから来た者たちだったのか。」
『……そうよ、ヴァルキリー達はこの国とアスガルドの架け橋となるはずだった存在。』
「はずだった…？」
神妙な顔をソーに向けるAは、それ以上何も言わなかった。これ以上は詮索しない方がいいと感じたソーは、ポケットからブレスレットを取り出した。
『それ……』
「忘れていっただろう。」
ソーはAの細い手首にその飾りを通した。
名残惜しそうにその手を離すと、ソーはAに向き合った。
「またアスガルドへ来てくれるか？」
『ええ。貴方が９つの世界の秩序を取り戻している間に、ロキが寂しくならないようにね。』
「俺がいない方がロキは嬉しいだろうな」
『ふふ…いいえ、そんなことない。
あなた達はほんとうにそっくりね。』
ソーにはどこが似ているのが分からなかったが、ただAがやっと笑ってくれたので、安心することができた。
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作者名：ゑもん | 作成日時：2023年12月26日 12時
