第８８話 ページ38
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_____ ニューヨーク州 クイーンズ
その日は例年より早い雪がちらつくほど凍える寒さだった。そんな中ある少年は、手にいっぱいの本を抱えて歩っていた。
「こんな日にもう…ついてないなぁ。」
教科書の重さに腕が下がって、僕はバランスを崩してよろけてしまった。バサバサっと地面に散らばる本。
「す、すいません……あッそこ踏まないで」
教科書にはプリントも挟んであったので、とても拾うのが大変だ。しかし道ゆく人は邪魔に思うだけで手伝おうとはしない。
「はあ…」と目の前の光景に嫌気をさしていると、手元の視線に自分ではない手が入り込んだ。
「ぇ……」
ひとりの女性がプリントをまとめていた。ロングコートが地面についているのも気にせずに、彼女は僕がすべて拾い終わるまで手伝ってくれた。
『はい。』
「……ありがとう、ございます」
女性が最後の一つを渡すと、僕は思わず息を呑んで黙ってしまった。
だって、だって仕方ないよ。
僕よりずっと年上だって分かっているのに、目の前にいる彼女がとても魅力的に見えて言葉が出ない。
『あなた、バッグとか持ってる？』
首をふるふると振ると、女性は辺りを見渡して近くのお店に入って行った。やっと一息つけると思ったのも束の間、女性が値札のついたトートバッグを持って来て僕の教科書類を入れた。
「あ、あの、本当にありがとう。お金は後で払うので」
『いいのいいの、学生からお金取るなんてできないわ。』
「じゃあ、何かおごります！サンドウィッチとか…」
『本当に気にしないで。お金が余って仕方がないの。こちらこそありがとう、ピーター』
なぜ僕の方がお礼を言われているのだろう。
でも、そんなことよりもやっぱり目に入るのは彼女の優しい笑顔だ。
「……って、何で僕の名前知ってるの！？」
『そこに書いてあったわ。』
そう言われて一番上のプリントを見ると、確かにピーター・パーカーと自分の字で書いてある。
「ほんとだ」
『じゃあ、風邪ひかないようにね。』
その人は優雅に立ち去ってしまった。
その姿すら、今の僕には綺麗に見える。
「名前、聞いておけばよかったな…」
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作者名：ゑもん | 作成日時：2023年12月26日 12時
