【QuizKnock】今日から、身長伸ばします。

3cm。 ページ4

「山本くん？」

「はい…？」


大学の帰り道。不意に後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、そこにはあの人がいた。


「橘さん！」


この上ない喜びを隠して、彼女のそばへ駆けよった。


「こんな所で会うなんて偶然だね、」

「ですね。」


2人で並んで歩き出したが、橘さんからの問いかけにぽつぽつと一言二言返すだけ。そんな会話が長く続くはずもなく、すぐに沈黙が訪れた。


(何か…話さないと。)


このままじゃつまらないやつだと思われてしまう。
そう思い必死に話題を考えるも、特にこれといって共有できる話なんてなかった。

ここまで来れば察しがつくとは思うが、実をいえば橘さん自体とそこまで仲がいい訳では無い。まず、クイズノックのメンバーで個人的に話したり遊んだりするのはいつもの動画メンバーくらい。どちらかと言えば裏仕事の多い橘さんとは、2人になることも、2人で話すこともほとんどなかった。


「山本くん、こっちの道？」

「そうですね…。橘さんは？」

「私は真っ直ぐ。」


じゃあ、ここで。

そんな風に言ってしまったのを酷く後悔した。せっかく2人で話せるチャンスだったのに、まともな会話は出来なかったし。このままサヨナラだなんて。

やってしまったな、と惜しみつつも、橘さんに背を向けて帰路に着く。


「ねえっ、あの！」


普段大人びた雰囲気の橘さんがいきなり大声を出すから、ビックリしてすぐにふりむいた。
橘さんは少しだけもじもじしながら俯くと、消え入りそうな声で


「よかったら、ご飯でも食べない？」


といった。


「…喜んで！」


がっつくのはどうかと思い、表では平常心を保ちながらも心の中でガッツポーズをする。


「良かった。」


そう言って笑う橘さんは本当に綺麗だ。
この人の笑顔にはきっと人を幸せにする魔法でもかかってるんだな、なんて馬鹿らしくもそう思った。

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