10cm。 ページ11
「じゃ、またなー。」
そう言って、全ての元凶であった須貝さんは去っていった。最初から最後まで呑気な人だ。
「帰ろっか。」
「ん。」
川上さんは、それきり何も話さない。やっぱり、今日の川上さんは何かおかしい。確かに、元々あまり喋る人ではないけど、今日はなおさらだ。
「あのさ、」
「ん?」
川上さんは大きく息を吐くと、頭をガシガシとかきながらこう尋ねた。
「Aさんのこと好きなの、いつから?」
「…わからない。」
先程まで全く恋愛話に興味を持っていなかった川上さんがそんなこと言うなんてらしくない。けれど、やけに真剣な顔でそういうから、僕も思わず真剣になる。
「どこが好きなの?」
「どこって…。気がついたら好きになってたしわかんないよ。」
そう答えると、川上さんはまた大きく息をつく。一体なんなんだ。
「じゃあ、告白する気は?」
「今はないけど…」
そこまで聞いて、ようやく安心した表情で「そっか。」と呟く。
嫌な予感がした。
さっきの川上さんの好みだって、Aさんにぴったりだったし。今だって。
聞いてみる価値はあるかもしれない。
「何?もしかして川上さんも好きなの?」
少しだけ笑いながら、冗談交じりにそう言った。
どうせ違う。僕の考えすぎだ。
早く否定して欲しかった。早く、そんな訳ないでしょって笑ってよ。
「もし…、そうって言ったら?」
「っ…」
予想していたその言葉。
あぁ、ライバルが増えたな、なんて。ライバルも何も、僕はその土俵にすら立ててないんだけれど。
「…そうだとしても、Aさんのことは譲れない、かな」
彼氏でもないくせに、とんだ口を叩いてしまったものだ。けれど、そんな僕とは打って変わって、川上さんは笑いだした。
「うそうそ。そんな怖い顔しんといてや。」
冗談やん?と軽く僕の肩を叩いた。
「そう…だよね。」
川上さんの目が少しだけ泳いだのを、僕は見逃さなかった。彼は素直だ。嘘をついてるってことくらい、直ぐにわかった。けど、問い詰められるほど僕は強くない。
(…好きならそういえばいいのに)
川上さんの本心も、全て見ないふりをした僕は、きっと卑怯者だ。
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雪(プロフ) - AIKAさん» コメントありがとうございます!次回作も頑張らせていただきます! (2019年1月13日 23時) (レス) id: de60348c8b (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 東雲なのさん» 度々コメントありがとうございます!!東雲様のコメントが励みになりました!こちらこそ最後までありがとうございます! (2019年1月13日 23時) (レス) id: de60348c8b (このIDを非表示/違反報告)
AIKA(プロフ) - 完結おめでとうございます〜☆前作に引き継いで、すごくいい作品でした…!次作も楽しみにしてます。 (2019年1月13日 22時) (レス) id: f10a4e8199 (このIDを非表示/違反報告)
東雲なの(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!このお話大好きだったので更新がなくなってしまうのは少し悲しく思いますが楽しませていただきました、ありがとうございます!! (2019年1月13日 19時) (レス) id: cdd7024e15 (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 東雲なのさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けてとても嬉しいです!! (2019年1月9日 19時) (レス) id: de60348c8b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪 | 作成日時:2018年12月11日 23時